著者
東 敬義 渡辺 守
出版者
三重大学
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学 (ISSN:03899225)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.19-28, 1998
被引用文献数
1

亀山市郊外の典型的な里山の溜池に生息する蜻蛉目幼虫の分布を調査した。溜池は水田灌漑用として作られており、水田に面した側は堤防が築かれて開放的であったが、他は水際まで雑木林が迫り、樹木の枝が池の上を覆う閉鎖的な環境となっていた。年間を通して捕獲した蜻蛉目幼虫は、モノサシトンボなどの樹林性イトトンボ類やヤブヤンマ、コシアキトンボなど、薄暗い環境を好む種が大半を占めた。しかし、シオカラトンボやギンヤンマ、オニヤンマなどの開放的な環境を好む種も捕獲された。多様性指数を計算すると、溜池の中の閉鎖的な部分における蜻蛉目幼虫群集は年間を通じて安定していたが、開放的な部分の群集は変動していることがわかった。典型的な里山の溜池は、背後の雑木林と密接に結びついて生活する種と水田などの開放的な環境に生活する種という、生息環境の異なる蜻蛉目昆虫が同所的に利用しているといえた。