著者
宮岸 隆司 東 琢哉 赤石 康弘 荒井 政義 峯廻 攻守
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.219-223, 2007 (Released:2007-05-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

目的 高齢者において終末期における治療と人工栄養に関する実態調査を実施し,栄養摂取方法選択ガイドライン作成の基礎資料とする.方法 対象は西円山病院(918床)における,2004年4月から2005年3月の死亡症例である.入院時の状況,経口摂取困難に至った原因と経過,終末期医療に対する意向,実際に選択された栄養摂取方法と平均余命について後ろ向き調査を行った.結果 155例(男性66例,女性89例)の死亡症例があり,死亡時平均年齢は86.2±9.0歳であった.うち95例で,肺炎などの感染症を契機に経口摂取が困難となり,栄養摂取方法が検討された.95例中,人工栄養は63例で選択され,経管栄養選択症例16例,経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例14例,中心静脈栄養選択症例33例.人工栄養非選択症例は32例であった.死亡時の栄養摂取方法と平均余命の比較では,経管栄養選択症例;827±576日,中心静脈栄養選択症例(経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例および中心静脈栄養のみの症例);196±231日,人工栄養非選択症例(末梢静脈栄養);60±40日であった.結論 今回の調査では,人工栄養導入後の平均余命は経管栄養にて有意に長かった.当院では経管栄養にて発熱が続く症例や消化管の機能不全が疑われる症例では中心静脈栄養に変更することが多いため,経管栄養の平均余命が長かったものと考えられる.32例では,人工栄養が選択されなかった.終末期高齢者の医療については,家族の意向が大きく影響し,多くは「患者の負担とならない治療」を希望するが,人工栄養導入をとっても結論はさまざまである.治療方針の決定に際して高齢や認知症という理由で医療行為が差し控えられることなく,初期より患者本人の意向を尊重できる体制を整える必要がある.終末期への移行の目安として,経口摂取困難を取り上げることの妥当性が示唆された.