著者
東井 正美
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.619-635, 2004-11-11

『資本論』第3部第10章「競争による一般的利潤率の均等化。市場価格と市場価値。超過利潤」は、マルクスの草稿が未完成なものであったせいか、十分整理されたものとはいわれがたく、極めて難解な章として知られている。とりわけ、この章の大部分を占めている市場価値論に関して、叙述の順序も前後しているせいか、理解に苦しむ点が少なくない。したがって、市場価値論に関してこれまで種々論議されてきた。主たる論議の的は、市場価値規定に関するものである。すなわち、市場価値が諸商品の総個別的価値の算術加重平均として決定されるという「加重平均規定」と、大量商品の個別的価値によって決定されるという「大量支配的規定」のいずれが「市場価値の正当な規定」なのかという問題であり、もうひとつは「不明瞭の箇所」とか、「曖昧な箇所」とか呼ばれている箇所で、需給関係が市場価格の市場価値からの偏差を説明するとしながらも、需給関係が市場価値の決定に関与すると述べられてあることをどのように理解すべきかという問題である。わたしもこれらの問題についてこれまで試行錯誤を繰り返しながら解明に努めてきた。本稿で、わたしのこれまの理解を総括することにした。