著者
池永 真義 東藤 弥生 橋之爪 美砂
出版者
大阪教育大学 幼児教育学研究室
雑誌
エデュケア
巻号頁・発行日
vol.34, pp.9-23, 2014-03-31

今日,全国的に幼小・小中をはじめとする異校園種間連携が盛んである。だが,そのような連携パターンによる協働だけで,本当に豊かな表現活動における実践創造は生まれるのだろうか。このような疑問が生じるのも,円滑に連携教育が推進されている学校園がある一方で,学校文化の違いや対等互恵の原則が十分に踏まえられていないため,双方が多忙間しかもてない連携教育も見られるからである。このような"疲弊した連携教育"が生じる大きな原因の一つとして,当事者である教員自らの「主体的な実践創造」が弱いことがあげられよう。さらに,相手の校園がもつ子ども観や教育方法に対する無理解もあげられるだろう。本研究では,多くの連携教育研究につきまとうこれらの壁を克服するため,中学校教員による幼稚園の出前保育を一つの実践的媒介としながら,校種の隔たりの大きい中学校美術科(鑑賞領域)と幼稚園(領域「表現」)の教員間によるコミュニケーションを通して,連携教育ならではの表現教育における新しい実践創造のあり方を明らかにしたい。この第一報では,そのような中学校美術科教員による問題提起の内容と出前保育の実践概要を示す。第二報では,これらの内容を受けて幼稚園教員との座談を展開し,最後に本研究全体の省察を行う。出前保育では,18世紀に京都画壇で活躍した伊藤若冲(1716-1800)の屏風『鳥獣花木図屛風』(複製画)を幼児(5歳児:20名)に鑑賞させた上で,表現活動に取り組ませることを試みた。美術にかかわる表現の多くは,幼稚園の表現方法に限らず,「みる」活動よりも「えがく,つくる」活動が中心である。しかし実践では,その逆に「みる」活動にウエイトをおき,園児らの柔軟な言葉のやり取りを通して表現活動への興味づけを高められるようにした。