著者
種村 健太郎 五十嵐 勝秀 松上 稔子 相崎 健一 北嶋 聡 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.146, 2010 (Released:2010-08-18)

個体の胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し,その基本構造と共に,神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによ り神経回路が形成される時期である。従って,この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルかく乱は,異常な神経回路形 成を誘発し,それが成熟後の異常行動として顕在化する蓋然性がある。しかしながら,従来の成熟動物を主対象とした神経行動毒性試 験では,その様な遅発性の異常を検出し難い。そこで,我々は暴露タイミング,情動・認知行動解析,及び神経科学的物証の収集の最 適化により,遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回,アミノ酸系神経伝達物質 受容体シグナルをかく乱するイボテン酸(テングダケ毒成分)の結果を報告する。 胎生期(胎生14.5日齢),幼若期(生後2週齢),及び成熟期(生後11週齢)のマウスに対して,イボテン酸(1mg/kg)を単回強制経口投 与(胎生期は母獣投与による経胎盤暴露)した。いずれの群にも,一般状態の異常を認めなかったが,生後12~13週齢時の行動解析に おいて,幼若期投与群に,オープンフィールド試験と明暗往来試験における不安関連行動の逸脱,条件付け学習記憶試験における音 連想記憶能の低下,プレパルス驚愕反応抑制試験における顕著な抑制不全が認められた。投与後2,4,8及び24時間における,海馬 のPercellome法による網羅的遺伝子発現解析の結果,幼若期投与群では,神経系発達において重要な役割を演じるGnRHシグナルや CRHシグナル及びEph受容体シグナルへの影響が,成熟期投与群と比べて極めて大きいことが明らかとなった。これらは幼若期の海馬 の感受性がイボテン酸に対して高いことを示し,また,そのプロファイルは成熟後の遅発性の中枢神経行動毒性発現の分子メカニズム 解明の端緒となる情報をもたらすと考えられた。