著者
種村 健太郎 古川 佑介 大塚 まき 五十嵐 勝秀 相崎 健一 北嶋 聡 佐藤 英明 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-5, 2012 (Released:2012-11-24)

個体の胎生期-幼若期の脳は、その発生-発達段階にある。その期間に、遺伝子という設計図を元にして、脳の基本構造が出来ると共に、神経活動(主に神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナル)による微調整がなされ、脳が完成に向かう。すなわち、脳は「活動」しつつ、その「形態・機能」を完成させていく。従って、この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルのかく乱は、一時的な神経症状を呈するだけに留まらず、脳構造や神経回路の形成過程に影響を及ぼす危険を高める。そして、こうした影響が不可逆的に固定されたまま成長した結果、成熟後に遅発性行動異常等の脳高次機能障害として顕在化することが危惧される。しかしながら、従来の神経毒性評価手法は成熟動物への化学物質投与による急性~亜急性の、痙攣、麻痺といった末梢神経毒性を主対象としており、遅発性の中枢神経機能に対する影響評価への対応は、比較的に立ち遅れてきた。こうした問題に対して、我々は、マウスを用いて、①神経作動性化学物質の胎生期~幼若期暴露、②複数の行動解析試験を組み合わせたバッテリー式の情動-認知行動解析による行動異常の検出、及び③行動異常に対応する神経科学的物証の収集、により遅発性の中枢神経毒性検出系の構築を進めてきた。 本シンポジウムでは、モデル化学物質として、イボテン酸(イボテングダケ等の毒キノコとされる一部のテングタケ属に含まれる)を用いた解析として、幼若期(生後2週齢)における単回強制経口投与による、成熟期(生後12~13週齢時)の不安関連行動の逸脱、学習記憶異常、情報処理不全といった異常行動と、それと対応する海馬の形態所見、及び遺伝子発現プロファイルについて紹介する。さらに、遅発中枢影響としての異常発現のメカニズム解明を目的とした、イボテン酸投与後の遺伝子発現変動解析結果についても議論したい。
著者
種村 健太郎 五十嵐 勝秀 松上 稔子 相崎 健一 北嶋 聡 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.146, 2010 (Released:2010-08-18)

個体の胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し,その基本構造と共に,神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによ り神経回路が形成される時期である。従って,この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルかく乱は,異常な神経回路形 成を誘発し,それが成熟後の異常行動として顕在化する蓋然性がある。しかしながら,従来の成熟動物を主対象とした神経行動毒性試 験では,その様な遅発性の異常を検出し難い。そこで,我々は暴露タイミング,情動・認知行動解析,及び神経科学的物証の収集の最 適化により,遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回,アミノ酸系神経伝達物質 受容体シグナルをかく乱するイボテン酸(テングダケ毒成分)の結果を報告する。 胎生期(胎生14.5日齢),幼若期(生後2週齢),及び成熟期(生後11週齢)のマウスに対して,イボテン酸(1mg/kg)を単回強制経口投 与(胎生期は母獣投与による経胎盤暴露)した。いずれの群にも,一般状態の異常を認めなかったが,生後12~13週齢時の行動解析に おいて,幼若期投与群に,オープンフィールド試験と明暗往来試験における不安関連行動の逸脱,条件付け学習記憶試験における音 連想記憶能の低下,プレパルス驚愕反応抑制試験における顕著な抑制不全が認められた。投与後2,4,8及び24時間における,海馬 のPercellome法による網羅的遺伝子発現解析の結果,幼若期投与群では,神経系発達において重要な役割を演じるGnRHシグナルや CRHシグナル及びEph受容体シグナルへの影響が,成熟期投与群と比べて極めて大きいことが明らかとなった。これらは幼若期の海馬 の感受性がイボテン酸に対して高いことを示し,また,そのプロファイルは成熟後の遅発性の中枢神経行動毒性発現の分子メカニズム 解明の端緒となる情報をもたらすと考えられた。