著者
松下 光宏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.30-45, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
12

本稿では,終助詞「もの」について,多くの先行研究や日本語教育での導入における意味・用法の記述(主に正当化や言い訳に用い,主に若い女性や子供が用いる)の妥当性を母語話者の使用実態を基に検証し,その本質的意味を考える。また,非母語話者の使用実態を調査し,コミュニケーション上の問題点を考察する。結果は次の4点である。1.「正当化・言い訳」用法は使用が少なく,理解・同意を提示/要求する用法や例などを示し理解を促す用法の使用が多い。2.性別・年齢差による使用の偏り(主に若い女性が使用)は各用法においてない。3.意味は「先行発話/事態の正当性を示す根拠を強い気持ちで提示する」ことを表す。4.非母語話者は上級者であっても使用が少なく,理解・同意を提示する用法の不使用がコミュニケーション上の問題点となりうる。以上の結果から,日本語教育では頻度・有用性ともに高い,理解・同意を提示する用法での導入を提案する。
著者
松下 光宏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.31-46, 2017 (Released:2019-04-26)
参考文献数
12

接続辞「ものの」はこれまで「PもののQ」のPとQの事態の特徴や両者の関係でとらえた意味や用法の説明が中心であった。本稿では,「PもののQ」文より1つ前の文・節との連接という観点から,「PもののQ」の使用文脈の特徴と「Pものの」の役割を論じる。さらに,「PもののQ」を用いる際の文法上の必要条件についても述べる。その特徴は次のとおりである。 ・「PもののQ」は直前の文・節がPとは連接せずQと連接し,Qが直前の文・節と同じ主題について事態を述べるという文脈でよく用いられる。「Pものの」は直前の文・節とQが表す事態について,その文脈の流れには沿わないPという事態も存在することを注釈として表す。 ・「PもののQ」はPの主題がQの主題と同じものか,Qの主題に従属するもの(Qの主題の部分,Qの主題の行為,Qの主題の程度や方法など)という条件を持つ。
著者
松下 光宏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.57-72, 2016 (Released:2018-12-26)
参考文献数
8

原因・理由を表す接続辞「ものだから」は,これまで「PものだからQ」のPとQが表す事態の特徴や機能からとらえた意味や用法が説明されてきた。本稿では,「PものだからQ」文より前や後の文脈に表される事態も分析し,「ものだから」の使用文脈の特徴を明らかにする。その特徴は次のとおりである。 「PものだからQ」は,話し手の認識において,本来・通常の事態とは異なる,異質・例外の事態Qとそれを引き起こす異質・例外の理由Pを表し,本来・通常の事態と対比的に示す文脈で用いられる。 そして,この使用文脈の特徴から,当該事態が本来・通常の事態と異なる,異質・例外の事態であるという話し手の判断が使用条件になり,さらにこの使用条件が予想や期待と異なる都合の悪い事態に対して理由を述べる「言い訳・弁解」の用法に結びつくことを述べる。