著者
松下 栄子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ペロフスカイト型酸化物は酸素八面体の積層構造を基本とし、関連構造をもつ一連の酸化物には強誘電体を初め、量子常誘電体から高温超伝導体までさまざまな物質が存在する。その特異な電気伝導度や物性は、応用に直接繋がる点でも物理的解明が必要とされる。本研究では、物質に内在する量子効果に注目し、構造特有のフォノンを見極め、種々のフォノンの媒介による相転移の解析理論を展開した。以下に、4つの研究項目別に述べる。1.クリーンな燃料電池の機構であるプロトン伝導に関しては、リチウム伝導との総合的な観点から、酸素八面体の積層構造(頂点接触型、辺接触型)と動くイオン(H^+,Li^+)の量子効果の差異により統一的解釈をし、国際会議で発表した(2004.8,2006.4)。2.量子常誘電性に関しては、srTiO_3の^<16>O→^<18>O同位体効果による常誘電-強誘電性転移の微視的理論を展開した。TOフォノンモードの役割を考慮し、STO18の圧力効果やSTO16の一軸性応力効果とも統合した理論にして国際会議で発表した(2006.5)が、拡張理論は次のIEEE国際会議で発表予定である(2007.5)。3.リラクサー特性については非鉛系物質の探索が急務で、小型大容量コンデンサーに即応用可のため、発現機構やリラクサー現象の特定、グラスとの相異等を理論的に明確にした。x線散漫散乱(静的特性)とNMR-NQRスペクトル(動的特性)の微視的理論開発に成功し、リラクサーの定義やグラスとの判別条件を突き止めた(論文発表済)。さらにペロフスカイト酸化物の逐次相転移を一般論で扱い、モルフォトロピック濃度相境界との関連を解明した成果は学会発表済(2006.5)で、全貌を纏めた論文は印刷中である。4.高温超伝導に関しては、角度分解光電子分光(ARPES)実験によるLOフォノンの示唆を考慮するため、実空間表示を用いたBCS拡張式を導出し、ペロフスカイト関連構造別に異なるTcの^<16>O→^<18>O同位体効果を説明し、国際会議で発表した(2005,8)。Tcの式における光学フォノンの役割を明確にし、クーパー対発生の機構をほぼ絞り込むことに成功し、次の低温物理国際会議(2008.8)で発表する素地を固めた。