著者
水野 健一 松井 敦男
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1.ピレン微粒子を分散したメリクリル酸メチル高分子(PMMA)膜試料をオスミウム処理し、濃淡をつけたものについて電子顕微鏡観測し、微粒子の粒径分布を求めた。その分布はおおよそガウス型でり、分布の山は32Å、半値幅は15Å、上限は約50Å、下限は約15Åであった。2.バルク・ピレン結晶では、低温において結晶構造が2相存在するので、まず、140K(高温相)において波長幅40cm^<-1>以下の光を用いて、蛍光スペクトルを測定した。我々が得られる粒径分布の範囲内では、確固たる自己束縛励起子発光は確認できなかった。続いて、2K(低温相)において、発光スペクトルを測定した。この発光スペクトルからも確固たる自己束縛励起子発光らしき物は見られなかった。このことは、微結晶において励起子は自己束縛しにくいことを意味している。最近、これを支持する結果が、我々のグループと協力関係にある竹島研究所で理論的に得られている。3.励起スペクトルのモニター波長依存性より、励起子帯幅の粒径依存性を調べた。それは、励起子帯幅は粒径が大きくなるに従い励起子帯幅が増し、粒径は約30Åで飽和が始まり、粒径47Åで、330cm^<-1>の最大値を示した。その後粒径が50Åのところで励幅が急降下し消失した。この最大値はバルク結晶の励起子帯幅と見なすことができることから、バルク結晶について今までに求められている励起子・格子相互作用の大きさや状態間の定性的な上下関係を考慮すると、v状態(自己束縛状態)が^1Lb状態(自由励起子状態)より下に15cm^<-1>以下にはならないという結果を得た。4.弱結合系に属するアントセランにおける微粒子の励起子帯幅の粒径依存性とピレンのそれを比較検討した結果、アントラセンでは分散体であるPMMAとの相互作用が強く、微粒子表面での励起子の散乱効果が見られるのに対し、ピレン微粒子ではその効果は無視できることがわかった。