著者
松井 陽征
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_225-1_247, 2019 (Released:2020-06-21)
参考文献数
44

保守主義政治思想について、日本の政治思想史家半澤孝麿と英国の政治哲学者マイケル・オークショットそれぞれの保守主義論を比較検討する。両者の議論の共通項として注目すべき事柄は、通常は保守主義の代表とは全く考えられていないモンテーニュ、パスカル、ホッブズの三者こそが保守主義の典型とされていることである。その三者は、二つの根拠から保守主義とされる。その一つは、半澤の保守主義類型化論における 「懐疑主義的保守主義」 概念によって答えられる。懐疑主義的保守主義は、秩序の正しさを判定する正義への徹底した懐疑を重要な特徴とする保守主義であり、その重要な含意は、「伝統」 を共同体秩序の基礎として積極的に保守するのではなく、きわめて消極的にのみ保守する、そして場合によっては 「伝統」 をも懐疑の対象とすることだ。根拠のもう一つは、人間の生にとっては 「政治」 は二義的な重要性しかもたず、「非政治」 の領域にこそ最終的な救済が求められるという 「非政治主義」 思想によって答えられる。それは、可死性と救済の問題が現世的秩序とどのように関係するのかを考察したオークショットのホッブズ論を検討することで、明らかとなる。