著者
松原 典明
出版者
関西大学文化交渉学教育研究拠点(ICIS)
雑誌
周縁の文化交渉学シリーズ3 『陵墓からみた東アジア諸国の位相―朝鮮王陵とその周縁』
巻号頁・発行日
pp.181-194, 2011-12-31

日本の近世における「王権」の墓制についてその歴史的な系譜と展開を示すことを目的とする。特に天皇家,将軍家,大名家に視点を当て,支配者階級における造墓に対する意識が,古墳時代以来改めて「象徴」として意識されたことを,墓の規模,構造,その変遷,宗教,思想などを通して捉えてみたい。具体的には,近世天皇家と将軍家の墓の規模の比較検討をする。将軍家の墓制については,特に将軍が霊廟として祀られるが,その系譜は,中世禅宗における開山堂,昭堂の系譜にあることを類例など確認しながら示した。さらに,将軍を中心とした実質的な権力下にあった構成員である大名の墓制の実態と,造墓の背景となった,思想,宗教,政治的な関係について類例を示しながら紹介した。結論的には,特に近世初期における大名家墓所造営において遺骸を埋葬する場合,朱子『家禮』の葬制に則った埋葬が行われ,後の供養は仏教的な様式に従ったことを指摘した。近世初期大名家墓所造営における儒教受容の一端を先学の研究に導きられながら明らかにした。