著者
真鍋 征一 藤岡 留美子 松山 明子 垣内 美穂 樋口 亜紺
出版者
福岡女子大学
雑誌
福岡女子大学人間環境学部紀要 (ISSN:13414909)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.7-12, 1998-02-25

平均孔径より大きな粒子の膜透過率φが1/10^5以下であるウイルス除去中空糸膜を用いて, 分子量から換算される剛体球としての径が平均孔径に近い分子量を持つDNAが拡散によって孔を通過することが出来るかどうかを明らかにすることを目的とした。ウイルス除去中空糸膜として平均孔径35nmの銅安法再生セルロース中空糸PLANOVA35^<TM>を採用した。DNAとして牛胸線DNAで分子量は2.3x10^3塩基対(分子量約1.4x10^7)を用いた。拡散係数Dは定常法により, [figure]DNAの水溶液からの中空糸膜への分配係数Kは残液中のDNA濃度より決定した。濾過前後の濃度変化よりDNAの膜透過率φを定めた。濾過は一定の膜間差圧ΔPでデッドエンド法で実施した。DNAの濃度は紫外吸収スペクトルにおいて波長260nmの吸光度より決定した。その結果, (1) 純水中および緩衝液中のDNA分子は再生セルロース膜へは吸着されずK&le;1.0であった。(2) φはΔPと正の相関性を示した。DNA分子として理論上最小径を示す剛体球モデルによる径として33nmの場合, 対応する径の金コロイド粒子のφは1/10^4以下であるのに対しΔP=0へ外挿したDNAのφは0.03であった。(3) 純水液中のDNA分子は拡散により膜中を輸送された。その際のDの値(298K)は3.0x10^<-7>から1.6x10^<-8>cm^2/secへと拡散の継続時間と共に変化した。(4) 緩衝液中での膜中のDNAの拡散の場合のDは(3)で示した経時的な変化は認められず9.3x10^<-9>cm^2/secの一定値を示した。この値は純水中の場合での平衡値に対応した。(5) 緩衝液での膜中のDの値は孔の存在しない対応する溶液中でのDの値の約1.4倍であった。以上の実験結果より, DNA分子は糸状にその形状を変化させることにより分子径よりも小さな孔を拡散によって輸送できると結論される。膜の孔中でのDの絶対値が液中のDの値より常に大きい理由は(1)膜中の拡散時での拡散電位の発生, (2)DNAの分子量分布の効果によると考えられる。