- 著者
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渡邉 博史
松岡 潤
梨本 智史
古賀 良生
大森 豪
遠藤 和男
田中 正栄
縄田 厚
佐々木 理恵子
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.Ab1344, 2012 (Released:2012-08-10)
【目的】 静的ストレッチング(以下ストレッチ)の効果的な持続時間については、10~30秒や最低20秒以上必要、または長時間の方が有効で60秒程度の効果が大きい等、諸家により異なっている。今回、ストレッチの持続時間とその効果について検討したので報告する。【対象】 膝疾患の既往がない健常成人20名、女性10名(21-54歳、平均30.3±8.7歳)、男性10名(22-35歳、平均28.8±3.8歳)を対象とした。【方法】 右下肢を対象側とし、膝屈曲90°の等尺性最大膝伸展筋力(MVC)を下肢筋力測定・訓練器(アルケア社製、以下QTM)で測定した。ストレッチ前の運動負荷として60%MVCの等尺性膝伸展運動(膝屈曲90°、収縮時間6秒、10回)をQTMで行った。運動後、大腿四頭筋の他動的ストレッチを行い、ストレッチ前後の大腿四頭筋緊張度(以下Q-tension)を測定した。Q-tensionは対象を左側臥位にて体幹・骨盤を壁面に押し付け固定し、右下肢を股関節伸展0°、膝関節屈曲135°で保持し、他動的膝関節屈曲時の下腿に生じる膝伸展反発力を足関節近位部でQTMにて測定した。ストレッチ持続時間は10秒、20秒、60秒(以下10S、20S、60S)の3種類で、日を変えて行い順番はランダムに選択した。そして3種類のストレッチについて、運動負荷後におけるストレッチ前後のQ-tensionの変化を性別に比較した。統計的解析は対応のあるt検定を用い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て行った。【結果】 女性のストレッチ前後のQ-tensionの変化は、10Sではストレッチ前2.3±1.3kg、後2.1±0.7kgで、ストレッチ後統計的に有意な低下を認めなかった。20Sと60Sでは、20Sのストレッチ前2.4±0.8kg、後2.0±0.7kg、60Sのストレッチ前2.3±1.0kg、後2.0±0.8kgで、20Sおよび60Sともストレッチ後統計的に有意な低下を認めた。男性のストレッチ前後のQ-tensionの変化も、10Sではストレッチ前3.7±1.9kg、後3.3±1.7kgで、ストレッチ後統計的に有意な低下を認めなかった。20Sと60Sでは、20Sのストレッチ前3.7±2.0kg、後3.2±1.7kg、60Sのストレッチ前3.9±2.3kg、後3.2±1.8kgで、20Sおよび60Sともストレッチ後統計的に有意な低下を認め、女性と同様の結果であった。【考察】 我々は先行研究において、床反力計を用いたQ-tensionの定量的評価で、ストレッチによってQ-tensionが低下することを報告している。本研究においても、男女ともストレッチ後Q-tensionが低下しており、一致した結果であった。しかし、10Sでは、男女とも統計的に有意な低下を認めなかった。このことから、ストレッチの持続時間として10秒では、不十分であることが示唆された。20S、60Sでは、男女とも統計的に有意な低下を認め、ストレッチの持続時間として、20秒~60秒は有効であることが考えられた。今回、20Sと60Sとの効果の差については、男女とも明確にすることはできなかった。これについては、対象者の変更等をして、今後検討が必要と考える。スポーツ現場等でのコンディショニングにおけるストレッチでは、多数の筋肉をストレッチする必要があるため、効果的でかつ短時間であることが望まれる。そのため60秒では長すぎると思われ、一般的に20秒程度を適当としていることは妥当と考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法においてストレッチは、臨床的によく行われている治療法であり、その効果的な持続時間を検討することは、ホームエクササイズとしてストレッチを指導していく上で、とても重要である。そして今後は、ストレッチの反復回数等の影響や、ストレッチ効果の持続性について検討していく必要がある。