- 著者
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松岡 瑛理
- 出版者
- 社会学研究会
- 雑誌
- ソシオロジ (ISSN:05841380)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.3, pp.59-76, 2016
<p>本稿の目的は二〇一三年以降、在日韓国・朝鮮人へと向けられるヘイトスピーチに対抗して起こった「カウンター」と呼ばれる抗議活動のなかの帰化者(日本国籍を取得した元在日)やダブル(日本人と在日を両親に持つ人々)が運動参加へと至った回路を提示することだ。 在日韓国・朝鮮人の反差別運動はこれまで国籍や氏名などの民族的要素を持った参加者が、日本社会から押しつけられる否定的イメージを肯定的イメージへと政治的に是正するアイデンティティ・ポリティクス(IP)の戦略にもとづいていた。しかし筆者が行った調査では、九〇年代以降増加の一途を辿る帰化者やダブルは属性ゆえに在日社会の境界に置かれ、IP型運動から離脱する傾向が強いことがわかっている。 一方でカウンター活動に参加する帰化者・ダブルへのインタビューから、運動離脱者との共通点・相違点が明らかになった。IP型運動への反発という点では共通しつつも、活動参加者らは日本社会で受けた差別経験から、出自への蔑視をより強く認識する傾向にある。さらに、活動における役割分担は機能的で、属性を問わない。出自を問う代わりに対ヘイトスピーチ活動に専念できることが、参加継続のサイクルを生んでいた。以上のように、本稿ではマジョリティ/マイノリティという二項対立にもとづき反レイシズム運動を分類する先行研究に対し、属性を越えて参加者がゆるやかに統合される新たな運動枠組みの可能性を提示した。</p>