著者
前田 奎 鈴木 楓太 束原 文郎 成相 美紀 吉中 康子 松木 優也 池川 哲史
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育スポーツ学研究 (ISSN:24347957)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.62-72, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
21

<目的>本研究の目的は,コロナ禍における遠隔による大学スポーツ授業を通じて,受講者の「社会人基礎力」(経済産業省(METI)が提唱)がどのように変化するのかを記述し,その変化の背景を検討することである.本研究で対象としたSLS(スポーツ・ライフスキル)という大学スポーツ授業は,「社会人基礎力」の育成を目指したものである.<方法>新型コロナウイルスの影響を受け,第5回目(Pre:実技授業開始時点)および第15回目(Post:実技授業終了時点)において,受講生を対象に「社会人基礎力」の12の能力要素に関して,自己評価による調査を実施した.1598名の大学スポーツ授業の受講者のうち,PreおよびPostの両方の調査に回答した188名(学年:1年生123名,2年生65名,性別:男子120名,女子65名,回答しない3名)が本研究の分析対象であった.各項目の値のPreとPostの比較には,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.<結果および考察>本研究の主な結果は次の通りである:12の構成要素のうち,「働きかけ力」(z = -2.26,p < 0.05),「課題発見力」(z = -2.48,p < 0.05),「計画力」(z = -2.62,p < 0.01),「創造力」(z = -3.99,p < 0.01),「発信力」(z = -3.95,p < 0.01)および「傾聴力」(z = -2.49,p < 0.05)について,授業後が授業前よりも有意に高値を示した.また,「社会人基礎力」を構成する3つの力をみると,「考え抜く力(シンキング)」(z = -3.85,p < 0.01)および「チームで働く力(チームワーク)」(z = -2.25,p < 0.05)について,授業後が授業前よりも有意に高値を示した.これらのことから,「働きかけ力」,「課題発見力」,「計画力」,「創造力」,「発信力」および「傾聴力」は遠隔による大学スポーツ授業でも育成可能であることが示唆された.本研究の結果は,コロナ禍あるいはアフターコロナにおける効果的な遠隔による大学スポーツ授業の一助となる.一方,対面授業を実施することによって育成できる能力要素が多く存在する可能性もある.したがって,今後はそれらの能力を育成するための授業についても研究を進める必要がある.