著者
西脇 雅人 椋平 淳
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育スポーツ学研究 (ISSN:24347957)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.49-60, 2023 (Released:2023-12-19)
参考文献数
29

背景:横断研究において,食事や睡眠の状況は学業成績状況と有意に関連することが報告されている.しかし,生活習慣と学業成績に関する大規模前向き縦断研究の観点で利用可能なデータはない.目的:そこで,本研究は,大規模な前向きの縦断的検証によって,大学初年次学生の食行動や眠気の状況が高年次の学業成績状況に影響するか,否か,検討することを目的とした.方法:食行動と眠気の両方の状況に応じ,2,351/2,328名の初年次大学体育授業の学生を四分位数に分類し,3年次終了時のTotal Grade Point Average(T-GPA)のスコア,およびそれぞれのCase(T-GPAが3.00以上となる,または,T-GPAが2.00より小さくなる)の発生に対する多変数の調整済みオッズ比(95%信頼区間)を比較した.結果:T-GPAは,Q1とQ2と比較し,Q4で有意に高い値を示し(なお,食行動や眠気の状況のスコアが,Q1は,不良を,Q4は,良好を示すものである),これらの差は,交絡因子で調整した上でも有意なままであった.食行動の状況において,Q1と比較して,T-GPAが2.00より小さくなるオッズ比は,Q3が0.60(0.45-0.72),Q4が0.64(0.48-0.86)であった.眠気の状況において,Q1と比較して,T-GPAが3.00以上となるオッズ比は,Q2が1.47(1.01-2.15),Q4が1.64(1.13-2.38)であった. 結論:我々の大規模な前向き縦断研究から得られた結果は,大学初年次学生の食行動や眠気の状況が,密接に,高年次のT-GPAの状況と関連していることを示すものであった.
著者
山中 裕太 村瀬 瑠美 本間 三和子 仙石 泰雄 角川 隆明 高木 英樹
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育スポーツ学研究 (ISSN:24347957)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.152-161, 2021 (Released:2022-09-28)
参考文献数
24

水泳は,小学校から大学までの体育の授業で広く活用されている.小学校から高校にかけての学校体育の水泳の授業は指導要領に沿って行われているが,大学の水泳の授業では学習内容に規定はない.そのため,大学の水泳授業は各大学の教育理念に沿った独自の水泳授業が行われており,全国の大学でどのような水泳授業が行われているのかは不明である.加えて,大学水泳授業を実施するにあたっての問題点は明らかにされていない.本研究では,大学の水泳授業の現状把握し,担当教員が経験してきた問題点を洗い出すことで,大学の水泳授業の改善を目指すことを目的とした.データ収集は,オンラインシラバス調査とオンラインアンケート調査によって行った.その結果,分析した全大学(780校中244校)の31.3%が水泳授業を実施しており,そのうち約8割が教職やコーチングの学位を目指す学生のための専門課程の一環の授業として実施されていることが明らかとなった.大学の水泳の授業の標準的な学習内容は,4泳法の泳法習得である.専門課程の授業では,4泳法の指導方法と水中安全の技術についての学習を実施する授業が多く,教養課程の授業では,水球,シュノーケル,アクアビクスなどの学習を実施する授業が多かった.大学によって授業の内容や施設は異なるが,回答者からの授業の問題に関する指摘で最も多かったのは,大学所有の屋内プールがないため,天候や水温の影響で予定通りに授業ができないなどのプール環境についてであった.さらに,授業内容についての問題も多く確認され,時間数が足りない,学生数が多い,習熟度にばらつきがあるなどの問題点が指摘された.得られた大学水泳授業の実態を踏まえ,これらの問題に対処することで充実した大学の水泳授業の展開が期待される.
著者
前田 奎 鈴木 楓太 束原 文郎 成相 美紀 吉中 康子 松木 優也 池川 哲史
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育スポーツ学研究 (ISSN:24347957)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.62-72, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
21

<目的>本研究の目的は,コロナ禍における遠隔による大学スポーツ授業を通じて,受講者の「社会人基礎力」(経済産業省(METI)が提唱)がどのように変化するのかを記述し,その変化の背景を検討することである.本研究で対象としたSLS(スポーツ・ライフスキル)という大学スポーツ授業は,「社会人基礎力」の育成を目指したものである.<方法>新型コロナウイルスの影響を受け,第5回目(Pre:実技授業開始時点)および第15回目(Post:実技授業終了時点)において,受講生を対象に「社会人基礎力」の12の能力要素に関して,自己評価による調査を実施した.1598名の大学スポーツ授業の受講者のうち,PreおよびPostの両方の調査に回答した188名(学年:1年生123名,2年生65名,性別:男子120名,女子65名,回答しない3名)が本研究の分析対象であった.各項目の値のPreとPostの比較には,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.<結果および考察>本研究の主な結果は次の通りである:12の構成要素のうち,「働きかけ力」(z = -2.26,p < 0.05),「課題発見力」(z = -2.48,p < 0.05),「計画力」(z = -2.62,p < 0.01),「創造力」(z = -3.99,p < 0.01),「発信力」(z = -3.95,p < 0.01)および「傾聴力」(z = -2.49,p < 0.05)について,授業後が授業前よりも有意に高値を示した.また,「社会人基礎力」を構成する3つの力をみると,「考え抜く力(シンキング)」(z = -3.85,p < 0.01)および「チームで働く力(チームワーク)」(z = -2.25,p < 0.05)について,授業後が授業前よりも有意に高値を示した.これらのことから,「働きかけ力」,「課題発見力」,「計画力」,「創造力」,「発信力」および「傾聴力」は遠隔による大学スポーツ授業でも育成可能であることが示唆された.本研究の結果は,コロナ禍あるいはアフターコロナにおける効果的な遠隔による大学スポーツ授業の一助となる.一方,対面授業を実施することによって育成できる能力要素が多く存在する可能性もある.したがって,今後はそれらの能力を育成するための授業についても研究を進める必要がある.