著者
松本 伸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-243_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 肩関節疾患において、夜間痛は頻繁に遭遇する臨床所見である。三笠らは6~7割にみられるとしており、夜間痛による睡眠障害をきたすことは、患者QOLを低下させると考えられる。また、睡眠障害は慢性疼痛のリスクを高める要因とされており、局所の炎症が減退したのちも、痛覚過敏や患側の不活動を惹起することで治療の妨げになる恐れがある。 檜森らは、夜間痛による中途覚醒を伴う患者において睡眠の質・量ともに低下していることを示唆しているが、中途覚醒が臨床症状へ及ぼす影響については言及していない。また、対象となっている例は手術適応となる腱板断裂損傷例が主であり、肩関節周囲炎患者の臨床像との違いが考えられる。 そこで今回、肩関節周囲炎患者において夜間による中途覚醒の有無が、疼痛・睡眠・精神情緒面に与える影響を調査することを目的とした。【方法】 対象は2017年4月~2018年5月の間に当整形外科クリニックで肩関節周囲炎の診断により理学療法が処方された52症例のうち、両側肩関節周囲炎6例を除外した46例46肩を対象とし(年齢54.4±10.6歳、男性14名、女性32名)、夜間痛による中途覚醒の有無2群に分類した。 測定項目は,精神情緒面としてHospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS,不安尺度:HADS-A,抑うつ尺度:HADS-D),安静時・動作時・夜間それぞれの疼痛の強度と睡眠の熟睡阻害感をVisual Analog Scale(以下VAS)を用いて測定した。熟睡阻害度は十分睡眠がとれていると感じる場合は0,全く睡眠がとれないと感じる場合は100とした。Mann-Whitney U検定と対応のないt検定を用いて,2群間の比較を行った。【結果】 覚醒なし群18名、覚醒あり群28名であった。 覚醒なし群HADS-A:4.0±3.0点、HADS-D:7.1±3.7点、安静時痛VAS:7.11±11.2㎜、動作時痛VAS:65.6±15.6㎜、夜間痛VAS:24.7±25.6㎜、熟睡阻害度VAS:12.0±15.9㎜。 覚醒あり群HADS-A:6.0±3.7点、HADS-D:6.5±3.7点、安静時痛VAS:13.3±19.4㎜、動作時痛VAS:68.5±24.5㎜、夜間痛VAS:43.9±29.8点、熟睡阻害度VAS:35.7±27.0㎜となった。 HADS-A、夜間痛VAS、熟睡阻害度VASにて2群間に統計学的有意差がみられた。【結論】 肩関節周囲炎患者の初回理学療法評価時において、夜間痛による中途覚醒がある例では、不安傾向が高く、夜間痛が強く、熟睡が妨げられていることが示唆された。 Chulらは肩痛が持続することで睡眠障害・不安・抑うつ傾向が高まることを、Poulらは睡眠障害と慢性疼痛の関連を報告している。このことから、疼痛に晒される期間や、睡眠障害が持続することは痛覚過敏や不活動性、機能障害の悪化など、慢性疼痛へ移行するリスクを高めると考えられる。早期から夜間痛による覚醒の有無を聴取し、ポジショニング指導や疼痛管理などの対応を検討していく重要性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に則った文書および口頭にて対象者に対して説明を行い、書面にて同意を得た。