著者
松本 佳彦
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

漸近的対称空間にはさまざまな種類があるが、本研究においてもっとも基本的な対象となるのは漸近的複素双曲空間(ACH空間)である。初めの課題としたのは、ACH空間であってアインシュタイン方程式を満たすようなもの、すなわちACHアインシュタイン空間に存在すると考えられる、一種の複素構造(正確には概複素構造)についての考察であった。候補となるような数種類の概複素構造に関する直接的な検討を行い、また研究協力者との議論を行っている。それと並行して、作業仮説を検証するためのテストケースとして用いることを意図して「ACHアインシュタイン空間であって、特に大きな対称性を持つものを構成する」というアプローチに取り組み、これには明確な進捗があった。構成にあたり生じる困難を具体的に把握するために、漸近的双曲アインシュタイン空間(AHアインシュタイン空間)も合わせて考えることにして、複数の手法を検討したところ、AHアインシュタイン空間についてはある手法が特に有効であることがわかり、結果としてPedersenによる構成(1986年)の高次元化が得られた。ACHアインシュタイン空間には現時点ではより原始的な手法しか通用せず、その効力も限定的なのであるが、引き続き研究を進めている。この他、ACHアインシュタイン空間に関する研究の世界的な状況について、韓国多変数関数論シンポジウム報告集にサーベイ論文を寄稿した。また、国内およびアメリカ(2017年8月より滞在)の複数の大学のセミナーや、メキシコで開かれた「The Third Pacific Rim Mathematical Association Congress」、東京で開かれた「Geometric Analysis in Geometry and Topology 2017」において、関連する内容の講演を行った。