著者
西島 真美 吉原 崇恵 松村 千有紀
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第50回大会・2007例会
巻号頁・発行日
pp.64, 2007 (Released:2008-01-08)

【目的】 高度な情報・消費社会を背景に、現代の子ども達は幼い頃から、たくさんの物から欲しいものを選べば手に入る便利で快適な生活を送っている。これからの家庭科教育には、単なる物の購入に関する知識や決定だけでなく、主体的に生きる決定をも含む意思決定能力の育成が期待されている。昨年は、より適切な意思決定をするための方法、「意思決定プロセス」を生徒に分かりやすく行わせるワークシートを提案した。そして今年は、日常の授業の中で意思決定プロセスを導入した実践を行った。意思決定の際、一人ひとりの価値観や資源などが影響するため、決定までのプロセスが最も重要である。今年の研究では、より適切な意思決定をするための意思決定プロセスを1.解決すべき問題をはっきりさせる。2.問題解決に必要な全ての事実を集める。3.解決方法を思いつくだけあげる。4.起こりうる結果や成り行きを考える。5.意思決定する。6.決定を実行する。7.結果を評価・判定する。の7つの段階に整理した。この意思決定プロセスを、TPOに応じた実践的な意思決定能力として生徒に身につけさせるためには、生徒のもつ価値項目や資源を育成することが求められる。今年の研究では、実践的意思決定能力育成のために6、7、の段階を充実させること、そのことによる_丸1_生徒同士の関わり合い_丸2_繰り返し行わせることの有効性を明らかにする。さらに、意思決定プロセスを身につけることによる生徒の学びの可能性についての一考察とする。 【方法】(1)昨年度の実践についてまとめ、新たに生徒の感想を分析することで、本研究の課題を明らかにした。(2)本年度の授業実践内容を記録し、生徒の価値項目の変化における全体の概況を分析した。研究対象は、三島市立Y中学校の2年1組(2006年11月10日~12月13日)の、食生活に関する授業である。特に、お弁当作りの実践における意思決定プロセスを追跡した。毎回のワークシートへの記述を分析の資料とした。(3)生徒の学びの過程を個人カルテとして作成した。そして価値項目の変化の過程が似ている生徒をグループ化し、それぞれの学びの特徴や課題について考察した。(4)全単元の終了後にアンケートを実施した。そして生徒の学びの可能性と今後の課題について考察した。 【結果と考察】 お弁当作りの意思決定プロセスは、授業での実践1回と、家での実践2回の計3回である。全体の概要としては、生徒達は3回の実践を追うごとに新しい価値に気づき、価値意識を広げることができた反面、価値項目がお弁当の質に関する価値である健康や安全へと集中した傾向があった。さらに本研究の課題に対しては以下のような考察をすることができた。1)実践の中で、ほとんどの生徒が友達のアドバイスを参考にしており、栄養バランスをよくするために品数を増やしたり、添加物の摂取を控えるためにおかずを変更したりする姿が多く見られた。価値項目の変化とも照らし合わせ、生徒同士の関わりは、ア.自分の決定に対する批判的思考を育て、意思決定の再検討を助ける。イ.新しい価値項目への気づきを助け、価値項目を増やす事ができる。という二点から有効な学習過程であるということが言える。2)繰り返しの実践の中で、生徒達はバランスの整ったお弁当を作るようになったり、時間のないときには工夫して作ることができるようになっている。同時に、多くの生徒は、価値項目を量的・質的に変化させていることがわかった。このことから、ア.毎回の反省・イ.友達のアドバイス・ウ.授業などで身につけた知識や技能を次回の意思決定に生かす・エ.価値意識の定着・オ.自覚しその必要性に気づく必要性に気づく・カ.知識や技能の向上という6点から、有効であったと言える。3)多くの生徒は、意思決定プロセスの考え方の日常生活での生かし方を具体的に考えることができていた。同時に、時間やお金といった身近な資源に気づき、その必要性を自覚して主体的に学び生活する態度に広がる可能性を見ることができた。