著者
前田 耕作 中村 忠男 松枝 到
出版者
和光大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

北部を含むジャラーワーン地区では州都クエッタ、カラート周辺域、フズダール周辺域が主たる調査域である。この地域にはイスラーム教以前、ゾロアスター教、仏教、ヒンドゥー教が存在していたと考えられてきた。ゾロアスター教の祠堂があるのはクエッタであるが、イランにおけるように古来からの残存を裏づけるものはなにもない。カラチにある祠堂とともに英領インド時代、商人のパルシー教徒の移住とのつながりで考えられるべきものと思われる。ジャラーワーン地区へのヒンドゥー教の流伝はイスラーム教をともなったアラブの侵入より早いが、それを裏づけるものは、その根強い信仰の存続とイスラーム教聖者伝説と交錯するヒンドゥー教の伝説のほかにはない。しかし、ジャラーワーン地域とラス・ベーラ地域の古道沿いには、ヒンドゥー寺院が点在し、それらは互いに繋がりをもっており孤立していない。クエッタ、カラート、フズダール、ベーラ、カラチと残存するヒンドゥー教の細い糸をたぐっていったとき、それらを繋ぐ一つの結び目にヒンゴール河畔に存在するヒンドゥー教の巡礼聖地ヒングラージに行きあたり、この聖地の具体的な調査をおこなうことができたことが、二年にわたる調査の最大の成果であった。ヒングラージの聖域の実測および女神の聖像等の詳細は、平成11年度に予定される補足調査の後、本報告で公表される。ラス・ベーラ地域の西端、マクラーン地域の東端に位置するヒングラージ聖跡の踏査によって調査域をマクラーン地域にまで広げる必要が生じ、平成9年度の調査では、トゥルバットおよびグワーダルを訪れ、ついにヒンドゥー教流伝の西限を突きとめることができた。