著者
松浦 博一 内藤 篤 菊地 淳志 植松 清次
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-43, 1992
被引用文献数
1 2

千葉県館山市とその近郊の安房郡和田町において,12月中旬に野外と無加温ガラス温室にハスモンヨトウの幼虫と蛹を放飼し,越冬の可能性について検討した。<br>1) 暖冬の1986&sim;1987年と1987&sim;1988年の冬に行った試験では,館山市,和田町ともに放飼した幼虫の一部が3月下旬に生存しているのが確認された。生存率は若齢が中&sim;老齢に比べて高かった。しかし,平年に比べて寒冷であった1985&sim;1986年の冬に行った館山市の試験では,幼虫は3月下旬まで生存できなかった。<br>2) 和田町での幼虫生存率は,館山市のそれに比べて高かった。和田町は北西面が山で囲まれて寒風が遮られ,南東面が開けた日だまりのふところ地である。有効温度が0.9&deg;C以上の日が越冬試験期間の74%を占め,実験から得た有効温度についての越冬可能条件が満たされていた。日最低気温の極値も-3.5&deg;Cで,低温致死温度と考えられる-5&deg;Cに至らなかった。このような地形条件の場所が野外越冬の可能地と考えられる。<br>3) 冬季における大気温の日当り有効温度(<i>X</i>)と幼虫生息場所の日当り有効温度(<i>Y</i>)との間には,<i>Y</i>=0.54+0.68<i>X</i>(<i>r</i><sup>2</sup>=0.7303)の関係式が得られた。<br>4) 無加温ガラス温室に放飼した3, 4齢幼虫は3月下旬までに31%が羽化し,28%が蛹で生存した。冬季の死亡率は41%で生存率は高かった。3月下旬の生存蛹は,その後の加温飼育ですべて正常に羽化した。<br>5) 無加温ガラス温室内に設けたビニールハウスの中へ放飼した3, 4齢幼虫は,無加温ガラス温室へ放飼したそれらに比べて羽化時期が早く,死亡率も低かった。<br>6) 無加温ガラス温室の地中に埋めた蛹は,2月中旬に20&sim;40%生存したが,これらの蛹はその後の加温飼育ですべて奇形成虫となった。
著者
松浦 博一 内藤 篤
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-48, 1991-02-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
7
被引用文献数
2 4

ハスモンヨトウの中∼老齢幼虫と蛹を0°C以下に冷却し,虫体凍結温度と低温致死温度を調査した。1) 過冷却点は幼虫では-8°C前後で,齢期による顕著な差違はなかった。蛹は過冷却点が-16°C前後のグループと-9°C前後のグループに分かれた。後者は前者より蛹齢が5∼6日若かった。2) 冷却時間の長さと幼虫の虫体凍結の関係については,0°Cでは48時間でも凍結しなかったが,-5°Cでは36時間で,-10°Cではわずか2時間で全個体が凍結した。凍結した個体はすべて死亡し,耐凍性はみられなかった。3) 冷却時間の長さが蛹化に及ぼす影響については,-5°Cの場合,3時間では蛹化に異常はみられなかったが,24時間では半数が,36時間では全個体が蛹化できずに死亡した。-10°Cの場合,2時間の冷却で全個体が蛹化できずに死亡した。-5°Cは本種の生存を左右する重要な低温であった。4) 蛹は幼虫に比べて凍結しがたく,-5°Cに48時間さらしても8割以上の個体が凍結しなかった。しかし,これらの個体は加温飼育の途中ですべて死亡し,回復不能な低温障害を被った。5) 湿った土や湿らせた濾紙上に置いた幼虫は,低温冷却に伴う植氷により,風乾土や乾いた濾紙上に置いた幼虫に比べて虫体凍結する個体が多かった。