著者
小室 一成 内藤 篤彦 野村 征太郎 野村 征太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は、未分化幹細胞が心筋細胞へと分化する過程、心筋細胞の機能が破綻する心不全発症の過程の両者におけるエピゲノム制御機構を解析した。まず分化に伴って活性化するWntシグナルの転写制御因子β-cateninが複数のエピゲノム制御因子と複合体を形成して中胚葉エンハンサーを活性化し下流の遺伝子プログラムを誘導することを明らかにした。さらに1細胞トランスクリプトーム解析とエピゲノム解析を統合することで、心臓への圧負荷によって活性化する転写因子群が心不全遺伝子プログラムを制御するエンハンサーを活性化することを見出した。本研究によりエピゲノムが心筋細胞の分化と破綻の両者を制御していることを明らかにした。
著者
内藤 篤彦
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.297-301, 2015 (Released:2015-06-18)
参考文献数
22

要約:個体老化とは「加齢に伴い死亡率が増加する原因となる様々な臓器の機能低下」と定義される生命現象である.加齢に伴って免疫系が老化する結果,免疫系本来の非自己を排除する機構と炎症反応を制御する機構が低下し,高齢者で認められる易感染性や慢性炎症が引き起こされる.補体分子C1q は自然免疫系において重要な役割を果たす因子であり,免疫系の老化が引き起こす慢性炎症に伴って血中濃度が増加することが知られているが,われわれはC1q が補体経路非依存性に加齢に伴う骨格筋の再生能低下という老化現象の原因になっていることを報告している.本稿では前半に加齢に伴う免疫系の老化現象について概説し,後半では補体分子C1q による老化誘導のメカニズムについて述べる.
著者
内藤 篤彦
出版者
The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.297-301, 2015

要約:個体老化とは「加齢に伴い死亡率が増加する原因となる様々な臓器の機能低下」と定義される生命現象である.加齢に伴って免疫系が老化する結果,免疫系本来の非自己を排除する機構と炎症反応を制御する機構が低下し,高齢者で認められる易感染性や慢性炎症が引き起こされる.補体分子C1q は自然免疫系において重要な役割を果たす因子であり,免疫系の老化が引き起こす慢性炎症に伴って血中濃度が増加することが知られているが,われわれはC1q が補体経路非依存性に加齢に伴う骨格筋の再生能低下という老化現象の原因になっていることを報告している.本稿では前半に加齢に伴う免疫系の老化現象について概説し,後半では補体分子C1q による老化誘導のメカニズムについて述べる.
著者
内藤 篤 宮崎 昌久 牧 俊郎
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲 (ISSN:09155805)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.212-218, 1981-03-25

能登半島におけるコガタルリハムシGastrophysa atrocyanea MOTSCHULSKYの分布調査を1976∿1978年の3年間実施した.その結果, 1.本種は主に半島北部の奥能登丘陵地帯と, 南部の宝達山系丘陵地帯及びそれに接する北辺地域に偏って分布しており, 両分布域の中間の能都・内浦丘陵地帯, 一部の小分布域を除く大部分の中能登丘陵地帯, 能登北西部山間地帯, 能登島などかなり広範囲にわたって分布していない地域が存在することが明らかになった.2.本種の分布とこの昆虫の発生に大きく関連があると思われる食物条件, 気象条件, 土壌条件や天敵などの環境要因, 農薬散布の影響などの人為的要因について検討を加えたが, それらの要因との間に特記すべき関連を見出すことはできなかった.3.能登半島は山地山林が多くしかもそれが半島全体に複雑に分布しており, コガタルリハムシの生息可能な草地や農耕地がその間に入り組んで不連続的に存在している.このような地形は, 森林がこの昆虫の分散の大きな制限要因であることから考えると, この半島での本種の分布は人為的要素が加わらない限りほぼ固定していると思われた.
著者
松浦 博一 内藤 篤 菊地 淳志 植松 清次
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-43, 1992
被引用文献数
1 2

千葉県館山市とその近郊の安房郡和田町において,12月中旬に野外と無加温ガラス温室にハスモンヨトウの幼虫と蛹を放飼し,越冬の可能性について検討した。<br>1) 暖冬の1986&sim;1987年と1987&sim;1988年の冬に行った試験では,館山市,和田町ともに放飼した幼虫の一部が3月下旬に生存しているのが確認された。生存率は若齢が中&sim;老齢に比べて高かった。しかし,平年に比べて寒冷であった1985&sim;1986年の冬に行った館山市の試験では,幼虫は3月下旬まで生存できなかった。<br>2) 和田町での幼虫生存率は,館山市のそれに比べて高かった。和田町は北西面が山で囲まれて寒風が遮られ,南東面が開けた日だまりのふところ地である。有効温度が0.9&deg;C以上の日が越冬試験期間の74%を占め,実験から得た有効温度についての越冬可能条件が満たされていた。日最低気温の極値も-3.5&deg;Cで,低温致死温度と考えられる-5&deg;Cに至らなかった。このような地形条件の場所が野外越冬の可能地と考えられる。<br>3) 冬季における大気温の日当り有効温度(<i>X</i>)と幼虫生息場所の日当り有効温度(<i>Y</i>)との間には,<i>Y</i>=0.54+0.68<i>X</i>(<i>r</i><sup>2</sup>=0.7303)の関係式が得られた。<br>4) 無加温ガラス温室に放飼した3, 4齢幼虫は3月下旬までに31%が羽化し,28%が蛹で生存した。冬季の死亡率は41%で生存率は高かった。3月下旬の生存蛹は,その後の加温飼育ですべて正常に羽化した。<br>5) 無加温ガラス温室内に設けたビニールハウスの中へ放飼した3, 4齢幼虫は,無加温ガラス温室へ放飼したそれらに比べて羽化時期が早く,死亡率も低かった。<br>6) 無加温ガラス温室の地中に埋めた蛹は,2月中旬に20&sim;40%生存したが,これらの蛹はその後の加温飼育ですべて奇形成虫となった。
著者
松浦 博一 内藤 篤
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-48, 1991-02-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
7
被引用文献数
2 4

ハスモンヨトウの中∼老齢幼虫と蛹を0°C以下に冷却し,虫体凍結温度と低温致死温度を調査した。1) 過冷却点は幼虫では-8°C前後で,齢期による顕著な差違はなかった。蛹は過冷却点が-16°C前後のグループと-9°C前後のグループに分かれた。後者は前者より蛹齢が5∼6日若かった。2) 冷却時間の長さと幼虫の虫体凍結の関係については,0°Cでは48時間でも凍結しなかったが,-5°Cでは36時間で,-10°Cではわずか2時間で全個体が凍結した。凍結した個体はすべて死亡し,耐凍性はみられなかった。3) 冷却時間の長さが蛹化に及ぼす影響については,-5°Cの場合,3時間では蛹化に異常はみられなかったが,24時間では半数が,36時間では全個体が蛹化できずに死亡した。-10°Cの場合,2時間の冷却で全個体が蛹化できずに死亡した。-5°Cは本種の生存を左右する重要な低温であった。4) 蛹は幼虫に比べて凍結しがたく,-5°Cに48時間さらしても8割以上の個体が凍結しなかった。しかし,これらの個体は加温飼育の途中ですべて死亡し,回復不能な低温障害を被った。5) 湿った土や湿らせた濾紙上に置いた幼虫は,低温冷却に伴う植氷により,風乾土や乾いた濾紙上に置いた幼虫に比べて虫体凍結する個体が多かった。
著者
内藤 篤
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.159-165, 1960
被引用文献数
5

シロイチモジマダラメイガは広く世界の熱帯,亜熱帯,温帯地方に分布し,本邦では九州,四国および本州の中国,東海近畿,北陸,関東に分布し,一部は東北南部太平洋沿岸地帯にも及んでいる。しかし九州および西南暖地の平坦部を除いては発生が少ない。本種の分布北限帯は,仙台平野の南部太平洋岸に始まって海岸沿いを南下し,関東地方の北部山ろく地帯を通り,本州の中部山岳地帯をう回して北陸に達し,反転して富山平野の山沿いを東北に進み,越後平野の北部あたりから日本海に抜ける。<br>本邦におけるシロイチモジマダラメイガの分布北限界の指標として,年平均気温11.5∼12.5°C等温帯および夏期平均気温(5∼10月)18.5∼19.5°C等温帯をあげることができる。しかし分布限界を大陸にまで延長して考えるならば,後者のほうがより適合性が高いようである。<br>マメシンイガは極東地域の寒帯,亜寒帯および温帯に分布する。本邦では北海道,本州,四国の全域および九州の一部に分布し,北海道および本州の東北,北陸,関東東山,山陰地方では発生が多いが,それ以南の暖地の平坦部や九州では少ない。また種子島以南の諸島では本種の存在が確認されておらず,おそらく九州本島が南限のように思われる。<br>以上のような両種の発生分布の状態から,明らかにマメシンクイガを北方系,シロイチモジマダラメイガを南方系の害虫とみることができる。両種は東北の南部から九州に至る広範囲にわたって混在し,関東,東海近畿,山陽および四国地方では両種の勢力はほぼ等しい。しかし総体的にみた場合は,本邦においてはマメシンクイガのほうが優勢である。
著者
内藤 篤
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲 (ISSN:09155805)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.255-"262-1", 1960-12-10

1959, 1960年の厳寒期に, シロイチモジマダラメイガおよびマメシンクイガの越冬幼虫の耐寒性に関する2, 3の実験を行なつた.マメシンクイガの過冷却点は-23.7℃でシロイチモジマダラメイガの-18.9℃より約5℃低かつた.両種は非耐凍性のこん虫で過冷却点に達して凍結したものは短時間で死亡した.また植氷した場合の凍結温度は, 前者は-14.5℃でやはり後者の8.6℃より低かつた.したがつてマメシンクイガの方がシロイチモジマダラメイガより耐寒性が強いと考えられるばかりでなく, 前者は土壤中での越冬深度も深いので, 一層強い寒さを凌ぐことができると思われる.このことはまた前者が寒冷地に, 後者が暖地に分布していることと無関係ではないように思われる.シロイチモジマダラメイガ越冬幼虫の低温障害は, -10℃以上ではほとんど現われないが, -15℃では数時間, -18℃では1時間位で死亡するものが多く, 生育の完うは困難であつた.したがつて自然界では-15℃以下の低温が致命的であると思われる.