著者
田邉 元三 松田 侑也 松本 裕朗 筒井 望 村岡 修
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2018-07-19

<p>インドやスリランカの伝統医学であるアーユルヴェーダでは, 糖尿病の初期の治療薬としてサラキア属植物の抽出物が用いられている. これまでに, その活性寄与成分として, 特異なチオ糖スルホニウム硫酸分子内塩構造をもつ新規化合物 salacinol (1), kotalanol (2), ponkoranol (3) およびその脱硫酸エステル体, neosalacinol (4), neokotalanol (5), neoponkoranol (6) を単離した.<sup>1,2,3). </sup>また, その作用機序が消化管表層に存在する糖質加水分解酵素 (a-glucosidase) の阻害に基づくことを明らかにするとともに, その阻害強度の程度は, いずれも市販糖尿病治療薬のアカルボースやボグリボースに匹敵するほど強いことも明らかにしている.<sup>1)</sup> スルホニウム塩という天然有機化合物として極めて特異な構造であること, また, その a-glucosidase 阻害活性が極めて強いことから活発な構造活性相関研究が国内外において活発に行われている.最近我々は, in silico 計算化学を用いて salacinol (1) の約10~40倍強い活性を示す化合物群 (7) の合成にも成功している (Fig.1).<sup>4)</sup> </p><p>Fig.1</p><p>一方、これまでのスルホニウム塩の合成には Scheme 1 に示すように, もっぱら, チオ糖8と側鎖部となる求電子剤 (9, 10, 11 など) とのS-アルキル化が鍵反応として用いられている. しかし, 本鍵反応では反応時間が著しく長いものが多く (< 7 days), また, 側鎖部に用いる求電子剤あるいは生成物が, 反応中に徐々に分解することも報告されている. さらに, 反応が環状チオ糖のS-アルキル化のため, 生成物のジアステレオ選択性が低くとどまる欠点 (dr, a/b = < 9/1) も有している. このような反応性のために, 目的のαアルキル化体 a-12の収率が中程度にとどまるものがほとんどであり, 本鍵反応は"Salacia"由来スルホニウム塩の簡便大量供給法としていまだ多くの問題を残している.<sup>5)</sup> </p><p>Scheme 1</p><p>そこで, "Salacia" 由来スルホニウム塩の簡便かつ効率的な新規スルホニウム塩骨格構法の開発研究の一環として, 今回, スルフィド (13) の閉環反応によるneosalacinol (4) の合成を検討した. その結果, 13 の環化反応が高いジアステレオ選択性 (dr, a/b = ca. 30/1) で効率よく進み, 短時間で 4 の合成中間体 (a-14) が高収率で得られることを見出した. さらに, a-13 を脱保護に付し, 目的の 4 の全合成を達成したので, その詳細について報告する.</p><p> </p><p>Scheme 2</p><p>1.スルフィド 13 の合成</p><p>鍵化合物となるスルフィド 13 は, neosalacinol (4) の側鎖部となる erythritol 誘導体 (15) と チオ糖部となるxylose誘導体 (16) のカップリング反応により合成した. </p><p> </p><p>Scheme 3</p><p>Erythritol 誘導体 15 は, 文献<sup>6) </sup>の方法に改良を加え, 極めて高い収率で合成した. すなわち, D-isoascorbic acid (18) を, アセトン中, PTSA の存在下に, 2,2-DMP との処理により調製した化合物 (19) のエンジオール部を過酸化水素で酸化的に解裂後, 生成するカルボン酸塩を単離することなくヨウ化エチルとのエステル化に付し, 18より 93% の収率でエステル (20) に導いた. 次に, 20 のLAH 還元により得たジオール (21) を水素化ナトリウムの存在下で臭</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>