著者
村岡 修 中川 好秋 松本 和男 中辻 慎一
出版者
日本薬史学会
雑誌
薬史学雑誌 (ISSN:02852314)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.20-41, 2022 (Released:2022-07-30)

シリーズその2の続編である本報においては,医薬や農薬開発の基礎となる 20 世紀の薬学分野での有機化学研究について,長井長義を源流として,生薬学,薬化学,薬品製造学に分枝して発展してきたわが国特有の薬学における天然物化学研究を中心とした流れを概観する.また,研究開始初期に習得した有機化学の知識と技能を最大限に駆使して新たな分野を切り開き,その分野で傑出した業績を挙げた2名のノーベル賞受賞者を含む化学者の業績についても紹介する.
著者
中村 誠宏 吉川 雅之 松田 久司 藤本 勝好 田邉 元三 中嶋 聡一 松本 崇宏 太田 智絵 小川 慶子 村岡 修
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.PosterP-6, 2013

<p>1.序論</p><p> 花は古くから観賞用のほかに食用や薬用にも供されてきた.中国伝統医学 (中医学) や漢方医学では,紅花,槐花,菊花,金銀花などの花部由来の生薬が処方中に配剤されている.西洋ハーブとしても,マリーゴールド,カモミール,デージー,エバーラスティングなどの薬用花が数多く知られている.欧州においては,アロマセラピーなどにおいて花の精油がしばしば用いられてきた.また,1930年頃にイギリス人医師のエドワード バッチによって花エキスを用いた"フラワーレメディ"の考え方が提唱され,今日でも信奉する人も多い.しかし,花の成分レベルでの薬効解明研究はまだ十分ではない.そこで著者は,伝統医学で用いられる重要な薬用花である椿花 (Camellia japonica, 花部) および蓮花 (Nelumbo nucifera, 花部) の生体機能性成分の探索を行った.</p><p> </p><p>2. 中国産椿花 (Camellia japonica, 花部) の新規サポニン成分とメラニン生成抑制作用</p><p> ツバキ科植物ツバキ (C. japonica) は日本を原産とする常緑広葉樹の一種で, 台湾, 朝鮮, 中国,インドネシア等アジア各地に広く分布する. その花部である椿花は中国では「山茶花」と記載され,古来より抗炎症薬,健胃薬,止血薬および打撲傷の治療 (外用薬) 等に用いられてきた.我々はこれまでに,日本産椿花からノルオレアナン型トリテルペンサポニン camellioside A–D を得て,胃粘膜保護および血小板凝集作用を有することを明らかにした.<sup>1,2</sup> 今回,椿花の生体機能性成分の探索研究の一環として,中国産 (雲南省) 椿花の抽出エキスの生物活性評価を行ったところ,マウスのメラノサイト由来 B16 melanoma 4A5 へのテオフィリン刺激によるメラニン生成抑制作用を示すことを見出したことから,含有成分の探索研究に着手した.すなわち,中国産椿花のメタノール抽出エキスを,酢酸エチル,n-ブタノールおよび水にて分配抽出し,n-ブタノール移行部を各種カラムクロマトグラフィーおよび HPLC を用いて繰り返し分離精製した.その結果,8 種の新規サポニン sanchakasaponin A–H (1–8) および 8 種の既知サポニン 9−16を単離した (図 1).得られたサポニン成分のメラニン生成抑制作用について検討を行ったところ,サポニン 2–6, 8, 10, 12−14, 16 は強い抑制作用 [IC<sub>50</sub>: 1.7−4.7 mM] を示すことが明らかとなり,その作用は positive controlであるアルブチン [IC<sub>50</sub>: 174 mM] よりも強いことが明らかとなった.一方,サポニン 3–6, 8, 10, 16 にはメラノーマ細胞に対する細胞毒性 [10 mM による細胞増殖抑制率: 78.7–88.3%] が認められた.以上の結果から,16位,21位および22位に結合したアシル基の存在は,メラニンの生成抑制や細胞毒性において重要であることが示された.<sup>3,4</sup></p><p>図 1. 中国産椿花の新規サポニン成分</p><p>3. 韓国産椿花 (Camellia japonica, 花部) の新規サポニン成分とメラニン生成抑制および繊維芽細胞増殖促進作用</p><p> 中国産椿花の成分探索と同様の方法を用い,韓国産 (済州島) 椿花のサポニン成分の探索を行った.その結果,2 種の既知サポニン [camellioside A (17), D (19)] とともに2 種の新規サポニン camellioside E</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
村岡 修 田邉 元三 森川 敏生 二宮 清文 松田 久司 吉川 雅之
出版者
天然有機化合物討論会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
no.51, pp.1-6, 2009-09-01

Salacinol and kotalanol are new class of potent glycosidase inhibitors, isolated by presenters from Ayruvedic traditional medicine Salacia reticulata, having the unique zwitter-ionic structure comprising of 1-deoxy-4-thio-D-arabinofranosyl cation and the sulfate anion in the alditol side chain. Elucidation of the stereostructure of kotalanol, which has long been unknown and very recently approved by Pinto and co-workers by the synthesis, by the independent manner involving the degradation of natural kotalanol is presented. In the detradation of 2, characteristic deprotective cyclization of heptitols to anhydroheptitols was found to occur to a large extent. Structural elucidation of salalprinol, one of the sulfonium analogs recently isolated from the same species, by the synthesis is also presented. Revisions of the structures of new constituents from Salacia species, neosalacinol and 13-membered cyclic sulfoxide, recently reported as constituents responsible for the α-glucosidase inhibitory activity by Minami and Osaki and co-workers, respectively, are presented. In relation to this study, synthetic route of de-O-sufonated salacinol, which was proved as potent as 1, has been developed. Finally, conditions for the quantitative analysis of 1, 2, and their de-O-sulfonates (3 and 4) by LC-MS for the qualitative evaluation of Salacia extracts is discussed.
著者
田邉 元三 松田 侑也 松本 裕朗 筒井 望 村岡 修
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2018-07-19

<p>インドやスリランカの伝統医学であるアーユルヴェーダでは, 糖尿病の初期の治療薬としてサラキア属植物の抽出物が用いられている. これまでに, その活性寄与成分として, 特異なチオ糖スルホニウム硫酸分子内塩構造をもつ新規化合物 salacinol (1), kotalanol (2), ponkoranol (3) およびその脱硫酸エステル体, neosalacinol (4), neokotalanol (5), neoponkoranol (6) を単離した.<sup>1,2,3). </sup>また, その作用機序が消化管表層に存在する糖質加水分解酵素 (a-glucosidase) の阻害に基づくことを明らかにするとともに, その阻害強度の程度は, いずれも市販糖尿病治療薬のアカルボースやボグリボースに匹敵するほど強いことも明らかにしている.<sup>1)</sup> スルホニウム塩という天然有機化合物として極めて特異な構造であること, また, その a-glucosidase 阻害活性が極めて強いことから活発な構造活性相関研究が国内外において活発に行われている.最近我々は, in silico 計算化学を用いて salacinol (1) の約10~40倍強い活性を示す化合物群 (7) の合成にも成功している (Fig.1).<sup>4)</sup> </p><p>Fig.1</p><p>一方、これまでのスルホニウム塩の合成には Scheme 1 に示すように, もっぱら, チオ糖8と側鎖部となる求電子剤 (9, 10, 11 など) とのS-アルキル化が鍵反応として用いられている. しかし, 本鍵反応では反応時間が著しく長いものが多く (< 7 days), また, 側鎖部に用いる求電子剤あるいは生成物が, 反応中に徐々に分解することも報告されている. さらに, 反応が環状チオ糖のS-アルキル化のため, 生成物のジアステレオ選択性が低くとどまる欠点 (dr, a/b = < 9/1) も有している. このような反応性のために, 目的のαアルキル化体 a-12の収率が中程度にとどまるものがほとんどであり, 本鍵反応は"Salacia"由来スルホニウム塩の簡便大量供給法としていまだ多くの問題を残している.<sup>5)</sup> </p><p>Scheme 1</p><p>そこで, "Salacia" 由来スルホニウム塩の簡便かつ効率的な新規スルホニウム塩骨格構法の開発研究の一環として, 今回, スルフィド (13) の閉環反応によるneosalacinol (4) の合成を検討した. その結果, 13 の環化反応が高いジアステレオ選択性 (dr, a/b = ca. 30/1) で効率よく進み, 短時間で 4 の合成中間体 (a-14) が高収率で得られることを見出した. さらに, a-13 を脱保護に付し, 目的の 4 の全合成を達成したので, その詳細について報告する.</p><p> </p><p>Scheme 2</p><p>1.スルフィド 13 の合成</p><p>鍵化合物となるスルフィド 13 は, neosalacinol (4) の側鎖部となる erythritol 誘導体 (15) と チオ糖部となるxylose誘導体 (16) のカップリング反応により合成した. </p><p> </p><p>Scheme 3</p><p>Erythritol 誘導体 15 は, 文献<sup>6) </sup>の方法に改良を加え, 極めて高い収率で合成した. すなわち, D-isoascorbic acid (18) を, アセトン中, PTSA の存在下に, 2,2-DMP との処理により調製した化合物 (19) のエンジオール部を過酸化水素で酸化的に解裂後, 生成するカルボン酸塩を単離することなくヨウ化エチルとのエステル化に付し, 18より 93% の収率でエステル (20) に導いた. 次に, 20 のLAH 還元により得たジオール (21) を水素化ナトリウムの存在下で臭</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
森川 敏生 松尾 一彦 八幡 郁子 二宮 清文 村岡 修 中山 隆志
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p>1.はじめに</p><p> ケモカインは,白血球やリンパ球などの免疫担当細胞の細胞遊走を誘導するサイトカインとして広く認識されており,現在までにヒトにおいては50種類近くのリガンドと18種類のシグナル伝達型受容体が知られ,さらに5種類のスカベンジャー/デコイ型受容体も存在する.ケモカインにはよく保存された4つのシステイン残基が存在し,そのうちのN端側の2つのシステイン残基が形成するモチーフにより,CXC,CC,CX3CおよびXCの4つのサブファミリーに分類される.これらのケモカインは免疫応答の制御にとどまらず,アレルギー疾患,自己免疫疾患,感染症やがんの病態発症においても重要な役割を果たしていることが明らかとなっている.近年,種々の疾患の発症や増悪などのキーファクターとなるケモカインおよびその受容体が解明されるにつれ,新たな創薬ターゲットとしてケモカイン受容体アンタゴニストの探索が精力的に展開されている.アレルギー疾患の発症や増悪に関与するケモカイン受容体として,CCR3,CCR4およびCCR8が挙げられる.これらのなかでCCR3は,好酸球の最も主要な遊走制御因子であり,好酸球,好塩基球およびTh2細胞の一部に選択的に発現する (Figure 1).<sup>1,2)</sup> </p><p> </p><p> </p><p> 我々はアレルギー疾患をはじめとした難治性炎症性疾患の新たな治療薬シーズの探索研究として,これまでにi.肥満細胞のモデル細胞であるラット好塩基球性白血病細胞(RBL-2H3) を用いた抗原刺激による脱顆粒抑制活性およびTNF-αおよびIL-4産生抑制活性,ii.マウス受身浮腫アナフィラキシー (PCA) に対する抑制作用 (in vivo),iii.マクロファージ様 RAW264.7 細胞を用いたリポ多糖 (LPS, lipopolysaccharide) 誘発一酸化窒素 (NO) あるいはiNOS 発現抑制活性,およびiv. HL-60 細胞由来好中球様細胞からの fMLP (N-formylmethionyl-leucyl-phenylalanine) 刺激による脱顆粒抑制活性,などを指標として検討してきた.<sup>3)</sup>これらの生物活性評価試験において見いだされた天然資源について,単一のケモカイン受容体のみを遺伝子工学的に過剰発現し樹立したケモカイン受容体安定発現細胞株を用い,細胞遊走阻害活性を指標として種々のケモカイン受容体に対するアンタゴニストの探索を行った.その結果,薬用のみならず香辛料として食用にも用いられるメース[ニクズク科(Myristicaceae) 植物Myristica fragrans Houtt. 仮種皮]のメタノール抽出エキスに,CCR3選択的なアンタゴニスト活性を見いだしたことから,その活性寄与成分の探索に着手した.</p><p>2.メタノール抽出エキスのケモカイン受容体アンタゴニスト作用試験</p><p> マウスB細胞株L1.2 細胞を用い各種ケモカイン受容体を過剰発現させた細胞株を樹立し,ケモタキシスチャンバーを用いた細胞遊走抑制作用を指標にアンタゴニスト作用を評価した.すなわち,各発現細胞を細胞遊走バッファー (0.5% BSA,20 mM HEPES pH7.4,RPMI-1640 without phenol red) で洗浄を 2 回行った後,8 × 10<sup>6</sup> cells/mL となるように懸濁した.リガンドとなるケモカインを細胞遊走バッファーで希釈して下部ウェル</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>