著者
木口 らん 藤島 一郎 松田 紫緒 大野 友久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.179-186, 2007-12-31 (Released:2021-01-17)
参考文献数
28

【目的】健常成人に唾液腺上皮膚のアイスマッサージを行い,唾液分泌が減少するかを検討した.【対象と方法】嚥下障害の既往がなく,唾液分泌に影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用していない健常成人で書面にて本研究の目的を説明し同意を得たボランティアを対象とした.氷を入れた金属製の寒冷刺激器を用いて耳下腺,顎下腺,舌下腺各々の表面皮膚上を1分間ずつ合計10分間マッサージする方法を1クールとした。唾液測定は各々30分間とし,吐下法を用い重量計で測定し唾液分泌速度(SFR)ml/minを計算した.日内変動を考慮し測定は夕方に統一した.実験1:即時効果判定目的.健常成人36名(男性14名,女性22名,年齢29.2±6.5歳).唾液腺皮膚上のアイスマッサージ1クールを行い,前後のSFRを比較した.対照群として同一被験者でアイスマッサージをせずに10分間の休憩の前後でSFRを測定し,比較した.実験Ⅱ:長期効果判定目的.アイスマッサージ群:健常成人22名 (男性11名,女性11名,年齢30.4±5.8歳).10分間のアイスマッサージを1日3クール7日間行い,開始前と終了日のSFRを比較した.対照群:健常成人15名 (男性2名,女性13名,年齢26.9±5.0歳).アイスマッサージを行わず,7~8日の間隔をあけて2回のSFRを比較した,【結果】実験Ⅰ:アイスマッサージ後にSFRは有意に減少した (p = 0.002).アイスマッサージなしの休憩前後でSFRに有意差はなかった (p=0.120).実験Ⅱ:7日間のアイスマッサージ後のSFRは有意に減少した (p=0.033).対照群ではSFRに有意な減少はなかった (p=0.885).【考察】健常成人において,唾液腺上の皮膚アイスマッサージによりSFRが有意に減少し,即時効果と長期効果を認めた.流涎治療としてアイスマッサージ継続の有効性が示唆された.
著者
宅見 央子 中村 弘康 福田 真一 松田 紫緒 小城 明子 大野 友久 白石 浩荘 米谷 俊 藤島 一郎 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.183-191, 2009-12-31 (Released:2020-06-28)
参考文献数
35

本研究の目的は,①健康成人30 名,②試験食品であるビスケットの摂食・嚥下に問題のない一般高齢者20 名,③リハビリテーション科外来通院中の脳血管障害後遺症患者11 名(以下,「リハ患者」)に一般のクリームサンドビスケット(以下,一般品とする)と,口どけのよいクリームサンドビスケット(以下,低付着性品とする)を摂食させ,摂食時の咀嚼回数・時間,嚥下回数・時間の観察評価と,自由嚥下後の口腔内残留量を測定することにより,安全性および日常の食生活への応用の観点からビスケットの物性と摂食・嚥下機能との関係を検討することである.健康成人と高齢者の咀嚼回数および,全3 群の咀嚼時間においては,一般品に比べて低付着性品が有意に低値を示した.対象者間の比較においては,一般品と低付着性品の両方で,リハ患者と高齢者の咀嚼回数および咀嚼時間は健康成人に比べて有意に多かった.また,健康成人と高齢者の嚥下回数,および健康成人の嚥下時間においては,一般品に比べて低付着性品が有意に低値を示した.健康成人では,一般品と低付着性品の口腔内残留量に差がなかったが,高齢者とリハ患者では,一般品に比べて低付着性品の口腔内残留量が有意に少なかった.健康成人と高齢者では「口の中での付着」「口どけのよさ」などにおいて,一般品と低付着性品に有意な差がみられ,低付着性品のほうが高い評価を得た.摂食・嚥下機能の低下しているリハ患者や高齢者は,一般品と低付着性品のいずれにおいても,咀嚼回数・時間を健康成人より増加して対応していた.しかし,口腔内残留量は健康成人より有意に多かった.以上の結果より,低付着性品は,高齢者などの咀嚼・嚥下機能低下者に適した食品であり,咀嚼・嚥下機能低下者には,口腔内に残留しにくい食品の提供が重要であることが示唆された.