著者
谷口 洋 藤島 一郎 大野 友久 高橋 博達 大野 綾 黒田 百合
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.249-256, 2006-12-31 (Released:2021-01-10)
参考文献数
10

【目的】ワレンベルグ症候群(WS)による嚥下障害はしばしば左右差を認める.本研究ではWSにおける食塊の下咽頭への送り込み側と食道入口部の通過側について検討した.【対象と方法】対象は嚥下造影検査(VF)を施行したWSの24症例で,24症例はVFを平均2.0回おこなっており,各検査を独立した47施行として後方視的に検討した.頸部正中位での嚥下を正面像で観察し,下咽頭(梨状窩のレベル)への食塊の送り込みを左右差なし,患側優位,健側優位に,食道入口部の通過を左右差なし,患側優位,健側優位,不通過に分類した.下咽頭へ患側優位に送り込まれた例では,健側に食塊を誘導する目的で健側を下に側臥位をとるか(一側嚥下)患側へ頸部回旋しての嚥下(嚥下前横向き嚥下)をおこない咽頭通過の改善を評価した.【結果】下咽頭への送り込み側は左右差なし15施行(32%),患側優位24施行(51%),健側優位8施行(17%)であった.食道入口部の通過側は左右差なし6施行(13%),患側優位9施行(19%),健側優位16施行(34%),不通過16施行(34%)であった.食塊が患側優位に下咽頭へ送り込まれた15施行に一側嚥下か嚥下前横向き嚥下をおこない,12施行(80%)で食塊が健側の下咽頭へ誘導されることで咽頭通過の改善をみとめた.【考察】従来の報告と同様に食道入口部の通過は健側優位が多かったが,下咽頭への送り込みは患側優位が多く対照的な結果となった.これまでWSにおける食塊の咽頭への送り込み側の報告はない.患側の下咽頭に送り込まれやすい機序として,健側の口蓋筋群がより強く収縮して食塊が患側に偏筒して口峡を通過することや,咽頭収縮筋が健側でより強く収縮して食塊が患側に送り込まれることが推察された.WSではこれらのことを考慮して体位調節により下咽頭への送り込みをコントロールすることが時に重要であると思われた.
著者
大熊 るり 藤島 一郎 武原 格 水口 文 小島 千枝子 柴本 勇 北條 京子 新居 素子 前田 広士 宮野 佐年
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.21-27, 1999-12-30 (Released:2019-06-06)
参考文献数
15

【目的】梨状窩の形状に個人差があることに注目し,誤嚥との関連について,内視鏡的嚥下検査(VE)および嚥下造影(VF)所見を用いて検討した.【対象・方法】1997年4月~98年3月の1年間にVFおよびVEを行った患者82名のうち,VFにて明らかな嚥下反射の遅延または造影剤の著明な梨状窩への残留を認めた31名(球麻痺14名,仮性球麻痺17名)を対象とした.内視鏡を経鼻的に挿入して梨状窩を観察し,録画したものを計測した.咽頭後壁正中部から梨状窩の外側端までの距離が最大となる距離を長径,長径と直交する形で梨状窩の内側縁と外側縁の間隔が最大となる距離を短径とし,短径/長径の値を求めた.この値が大きいほど梨状窩の幅が広いことを示し,小さいほど幅が狭いことを示す.【結果】披裂喉頭蓋皺襞の腫脹が著明な症例が6名あり,これらは最も梨状窩の幅が狭い症例とも考えられたが,計測困難なため比較の対象からは除外した.また梨状窩の形状に左右差が認められる症例が9名あった.短径/長径の値について,VF所見上の誤嚥あり群(14名)と誤嚥なし群(11名)とで比較した.左右差のある場合は値の大きい側を用いて比較すると,誤嚥あり群では平均0.296,なし群では0.370と,誤嚥なし群で有意に値が大きかった(p<0.05).すなわち,誤嚥のない症例は誤嚥のある症例と比べて梨状窩の幅が広いと考えられた.【考察】梨状窩の幅が広いと,嚥下反射の遅れや嚥下後の咽頭残留があっても,梨状窩に食塊が貯留できるスペースがあるため,気道への流入を防ぐのに有利と思われた.梨状窩の形状に個人差がある原因として,一つには生来の個体差が挙げられるが,咽喉頭粘膜,特に披裂部の腫脹が大きく影響していると思われた.内視鏡で梨状窩の形状を観察することは,誤嚥の危険性を予測する上で有用であると考えられた.
著者
神津 玲 藤島 一郎 朝井 政治 俵 祐一 千住 秀明
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-96, 2007-08-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

摂食・嚥下障害例では誤嚥,特に唾液誤嚥(不顕性誤嚥)が問題になることが少なくない.その予防のために,呼吸理学療法の一手段である体位管理が臨床的に有用であることを経験する.今回,唾液誤嚥に及ぼす体位の影響について検証を行った.重度嚥下障害例を対象に,仰臥位,後傾側臥位,前傾側臥位の各体位での唾液誤嚥の動態を喉頭内視鏡を用いて観察した.その結果,仰臥位および後傾側臥位では,唾液の著明な咽頭貯留,吸気時の喉頭侵入や呼気時の吹き出しを認めたが,前傾側臥位では咽頭貯留,喉頭侵入ともに認めなかった.唾液誤嚥の予防に前傾側臥位の有用性が示され,臨床現場における患者管理の一環として積極的に導入する価値があるものと考えた.
著者
大熊 るり 植松 海雲 藤島 一郎 向井 愛子
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.180-185, 2002-04-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

上部消化管造影検査施行中に発生したバリウム誤嚥について調査を行い,誤嚥への対策について検討した.7年半の間に検査を受けた262,888名を対象に,誤嚥発生率の推移や誤嚥が確認された118名のプロフィール等につき調査した.誤嚥者の年齢は30~94(平均65)歳.70歳以上では誤嚥発生率が70歳未満の約10倍となっており,高齢受診者への配慮が必要と思われた.また誤嚥発生率が平成11年度から12年度にかけて上昇しており,これは検査に使用するバリウム製剤の粘性が低下した時期と一致していた.誤嚥対策として,検査前に嚥下障害に関するスクリーニングを行うこと,使用するバリウム製剤の粘性を検討すること等が考えられた.
著者
藤島 一郎
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.55, no.Suppl.2, pp.S129-S141, 2009 (Released:2010-12-01)
参考文献数
47
被引用文献数
2
著者
木口 らん 藤島 一郎 松田 紫緒 大野 友久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.179-186, 2007-12-31 (Released:2021-01-17)
参考文献数
28

【目的】健常成人に唾液腺上皮膚のアイスマッサージを行い,唾液分泌が減少するかを検討した.【対象と方法】嚥下障害の既往がなく,唾液分泌に影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用していない健常成人で書面にて本研究の目的を説明し同意を得たボランティアを対象とした.氷を入れた金属製の寒冷刺激器を用いて耳下腺,顎下腺,舌下腺各々の表面皮膚上を1分間ずつ合計10分間マッサージする方法を1クールとした。唾液測定は各々30分間とし,吐下法を用い重量計で測定し唾液分泌速度(SFR)ml/minを計算した.日内変動を考慮し測定は夕方に統一した.実験1:即時効果判定目的.健常成人36名(男性14名,女性22名,年齢29.2±6.5歳).唾液腺皮膚上のアイスマッサージ1クールを行い,前後のSFRを比較した.対照群として同一被験者でアイスマッサージをせずに10分間の休憩の前後でSFRを測定し,比較した.実験Ⅱ:長期効果判定目的.アイスマッサージ群:健常成人22名 (男性11名,女性11名,年齢30.4±5.8歳).10分間のアイスマッサージを1日3クール7日間行い,開始前と終了日のSFRを比較した.対照群:健常成人15名 (男性2名,女性13名,年齢26.9±5.0歳).アイスマッサージを行わず,7~8日の間隔をあけて2回のSFRを比較した,【結果】実験Ⅰ:アイスマッサージ後にSFRは有意に減少した (p = 0.002).アイスマッサージなしの休憩前後でSFRに有意差はなかった (p=0.120).実験Ⅱ:7日間のアイスマッサージ後のSFRは有意に減少した (p=0.033).対照群ではSFRに有意な減少はなかった (p=0.885).【考察】健常成人において,唾液腺上の皮膚アイスマッサージによりSFRが有意に減少し,即時効果と長期効果を認めた.流涎治療としてアイスマッサージ継続の有効性が示唆された.
著者
中野 雅徳 藤島 一郎 大熊 るり 吉岡 昌美 中江 弘美 西川 啓介 十川 悠香 富岡 重正 藤澤 健司
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.240-246, 2020-12-31 (Released:2021-04-30)
参考文献数
17

【目的】聖隷式嚥下質問紙は,摂食嚥下障害のスクリーニング質問紙であり,15 の質問項目に対して重い症状:A,軽い症状:B,症状なし:C の3 つの選択肢がある.「一つでも重い症状A の回答があれば摂食嚥下障害の存在を疑う」という従来の評価法は,高い感度と特異度を有している.本研究では,回答の選択肢をスコア化し評価する方法を新たに考案し,従来の評価法と比較する.また,本法を健常者に適用し,嚥下機能が低下した状態のスクリーニングツール開発のための基礎資料を得ることをあわせて行う.【方法】聖隷式嚥下質問紙開発時に用いた,嚥下障害があるが経口摂取可能な脳血管障害患者50 名,嚥下障害のない脳血管障害患者145 名,健常者170 名を対象に行った調査データを使用した.選択肢を,A:2 点,B:1 点,C:0 点,およびA の選択肢に重みをつけ,A:4 点,B:1 点,C:0 点としてスコア化した場合の合計点数に対して,カットオフ値を段階的に変えそれぞれについて感度,特異度を算出した.ROC 分析により最適カットオフ値を求め,このカットオフ値に対する感度,特異度を従来の方法と比較した.また,健常者170 名のデータについて,年齢階層ごとの合計点数に解析を加えた.【結果】ROC 分析の結果,A:4 点としてスコア化し,8 点をカットオフ値とする評価法が最適であることが示された.本評価法は,感度90.0%,特異度89.8% であり,従来法の感度92.0%,特異度90.1% に匹敵するものであった.健常者における年齢階層別の比較では,75 歳未満と75 歳以上で明確なスコアの差が認められた.【結論】スコア化による聖隷式嚥下質問紙の評価法は,A の回答が一つでもあれば嚥下障害の存在が疑われるという従来の評価法とほぼ同程度の感度,特異度を有していた.一般高齢者では,75 歳以上になるとスコアが有意に高くなることが確認され,嚥下機能が低下した状態を評価するためのスクリーニングツール開発の基礎資料が得られた.
著者
宅見 央子 中村 弘康 福田 真一 松田 紫緒 小城 明子 大野 友久 白石 浩荘 米谷 俊 藤島 一郎 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.183-191, 2009-12-31 (Released:2020-06-28)
参考文献数
35

本研究の目的は,①健康成人30 名,②試験食品であるビスケットの摂食・嚥下に問題のない一般高齢者20 名,③リハビリテーション科外来通院中の脳血管障害後遺症患者11 名(以下,「リハ患者」)に一般のクリームサンドビスケット(以下,一般品とする)と,口どけのよいクリームサンドビスケット(以下,低付着性品とする)を摂食させ,摂食時の咀嚼回数・時間,嚥下回数・時間の観察評価と,自由嚥下後の口腔内残留量を測定することにより,安全性および日常の食生活への応用の観点からビスケットの物性と摂食・嚥下機能との関係を検討することである.健康成人と高齢者の咀嚼回数および,全3 群の咀嚼時間においては,一般品に比べて低付着性品が有意に低値を示した.対象者間の比較においては,一般品と低付着性品の両方で,リハ患者と高齢者の咀嚼回数および咀嚼時間は健康成人に比べて有意に多かった.また,健康成人と高齢者の嚥下回数,および健康成人の嚥下時間においては,一般品に比べて低付着性品が有意に低値を示した.健康成人では,一般品と低付着性品の口腔内残留量に差がなかったが,高齢者とリハ患者では,一般品に比べて低付着性品の口腔内残留量が有意に少なかった.健康成人と高齢者では「口の中での付着」「口どけのよさ」などにおいて,一般品と低付着性品に有意な差がみられ,低付着性品のほうが高い評価を得た.摂食・嚥下機能の低下しているリハ患者や高齢者は,一般品と低付着性品のいずれにおいても,咀嚼回数・時間を健康成人より増加して対応していた.しかし,口腔内残留量は健康成人より有意に多かった.以上の結果より,低付着性品は,高齢者などの咀嚼・嚥下機能低下者に適した食品であり,咀嚼・嚥下機能低下者には,口腔内に残留しにくい食品の提供が重要であることが示唆された.
著者
朝井 政治 神津 玲 俵 祐一 宮崎 哲哉 中村 美加栄 藤島 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.424, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】 高齢者に対する呼吸管理を行う機会が増加する中,気管内挿管下に人工呼吸管理を行った症例のうち,抜管後新たに嚥下障害や排痰困難をきたすことを経験する。このような症例では,誤嚥や分泌物の自己喀出に難渋し,離床やADLの改善に支障をきたす場合が少なくなく,臨床上大きな問題となる。 今回,人工呼吸管理後に新たに嚥下障害を呈した症例の臨床的特徴について報告する。【対象・方法】 対象は1999年4月から2002年3月までに当院にて気管内挿管,人工呼吸管理となり,理学療法が処方された187症例のうち,脳血管障害,精神科疾患,重度の痴呆,神経筋疾患および頚髄損傷,一度も抜管に至らず気管切開となったもの,を除いて,抜管ができた55例(平均年齢72.2±12.3歳,男性43例,女性12例)とした。方法は,カルテから,嚥下障害の有無を調査し,嚥下障害を呈した症例の1)患者背景,2)人工呼吸管理,3)気道分泌物貯留,4)嚥下機能評価結果,について調査した。なお,嚥下障害の有無については,問診と身体所見,および主治医や担当看護婦からの情報,嚥下機能評価の結果より判定した。【結果】 嚥下障害を認めた症例は55例のうち4例(7%)であった。以下に各症例の臨床的特徴を示す。症例1:77歳,男性。肺炎,肺結核後遺症。挿管2日。予定外抜管あり,鎮静なし。分泌物貯留中等度。症例2:84歳,男性。急性肺水腫,心不全,肺炎,腎不全。挿管5日。予定外抜管なし,鎮静5日。分泌物貯留多量。症例3:84歳,男性。塵肺,COPD,喘息。挿管8日。予定外抜管あり,鎮静7日。分泌物貯留多量。症例4:73歳,男性。肺炎,間質性肺炎。挿管24日。予定外抜管あり,鎮静22日。分泌物貯留多量。 上記症例では,後期高齢者,予定外抜管の経験,鎮静が行われていた症例がそれぞれ3例で,いずれの症例でも分泌物の貯留を認め,抜管後の経口のみによる栄養摂取困難と診断された。残る51例の平均年齢は71.6歳,挿管期間平均6.9日,鎮静28例,予定外抜管5例であった。【考察】 今回,人工呼吸管理後に新たに生じた嚥下障害の頻度と臨床的特徴を調査した。その結果,中枢神経疾患や神経筋疾患,精神科疾患など嚥下障害のリスクを有さない症例で,抜管後に嚥下障害を呈した症例は7%と必ずしも多くなかった。しかし,嚥下障害を認めた4例はいずれも経口からの摂食は困難であった。人工呼吸管理に至るような重症の急性呼吸障害を呈した症例では,critical illness neuropathyやmyopathyを呈する場合があると報告されている。上記4症例を細かく比較してみても,一定の傾向は認められず,特に原因と考えられるものがなかったことから,この状態にあったことも予想された。これは回復に長い期間を必要とするため,人工呼吸器離脱直後だけでなく,継続的,かつ注意深いサポートが必要と考えられた。
著者
藤島一郎
雑誌
神経内科
巻号頁・発行日
vol.52, pp.309-315, 2000
被引用文献数
2