著者
松谷 泰樹
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.20-39, 2020 (Released:2020-08-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

貯蓄が投資を決めるものとされているKalecki (1929b) と,投資が貯蓄を決めるものとされているKalecki (1933b) との間において,貯蓄と投資の関係について180度転回する「コペルニクス的転回」,すなわち,「カレツキ的転回」とでも呼ぶことができる理論的転回が見られる。その「転回」によって,貯蓄と投資の均等は,所得とのかかわりによってもたらされるものであることが明らかにされる。それは,資金供給としての貯蓄は,利子率の調整によって,投資の資金需要に振り向けられ,貯蓄と投資は均等するものとされている,「セイの法則」に支配された「古典派」経済学とは異なる理論である。つまり,この「カレツキ的転回」によって,有効需要の論理に基づき国民所得水準の決定を示すマクロ経済学が誕生しうるための,経済学史上決定的な意味をもつ基盤が成立していることが示されているのである。
著者
松谷 泰樹
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.13-23, 2016 (Released:2016-07-13)
参考文献数
17

「囚人のジレンマ」を取り上げてゲーム理論を紹介する場合,まず,ゲーム理論の構成要素を命題の形で提示することにより,ゲーム理論の概要を示し,そのうえで,ゲーム理論の1例として「囚人のジレンマ」を取り上げて,そこから得られる帰結に至るまでのプロセスを段階を追って示すことが重要である。これにより,「囚人のジレンマ」をもとにしてのゲーム理論の理解が図られる。そのうえで,さらに考察を加えることにより,「囚人のジレンマ」のもつ含意が明らかにされる。
著者
松谷 泰樹
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.97, no.2, pp.231(59)-256(84), 2004-07

論説本稿では, Kalecki(1933)において示された, 有効需要の論理に基づく利潤決定の理論に, Kalecki(1938)による国民所得の分配理論を結合させたKalecki(1939)において, 短期国民所得決定モデルとしての, カレツキ経済学の基本構造が, 初めて, 完結した体系として成立していることが明らかにされる。その性格は, 資本家と労働者から成る2階級モデルにおいて, 独占が存在する短期の経済を想定し, 有効需要の論理に基づき, 国民所得が決定されることを示すものである。その場合, Lerner(1934)の独占度の概念の摂取が, 基本構造の成立において欠かせなかっただけでなく, その性格の形成にも影響を及ぼしていることが明らかにされる。This study demonstrates that it is Michał Kalecki's 1939 work titled Essays in the Theory of Economic Fluctuations, where he established for the first time a complete model of the determination of the national income in the short term, synthesizing his theories of the determination of profits based on the principle of effective demand in Kalecki's 1933 work Próba teorii koniunktury (Essay on the Business Cycle Theory) and of the distribution of the national income in Kalecki's 1938 paper "The Determination of Distribution of the National Income." The unique attribute of the fundamental structure is a two-class model of the capitalists and the workers on the assumption of monopoly in the economy and on the principle of effective demand to show the determination of the national income in the short term.The present paper clarifies that it is not only such characteristics that were influenced by integration of the concept of the degree of monopoly originally developed in Abba Lerner's 1934 work on "The Concept of Monopoly and the Measurement of Monopoly Power," which was also indispensable for construction of the fundamental structure.