著者
松迫 陽子 笠原 伸幸 梛野 浩司 中俣 恵美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-198_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】片麻痺患者の歩行練習において、課題指向的な運動学習が重要とされている。しかし、重度感覚障害や半側空間無視(以下、USN)が重複している場合、麻痺側下肢への注意が向きにくいため、フィードバックが得られにくく運動学習の阻害となりやすい。そのため、根気よく麻痺側下肢の動きを意識させて歩行練習を行う必要がある。近年よく用いられる2動作歩行練習では、central pattern generatorの賦活や麻痺側下肢の筋活動増大が図れるとされるが、無意識下での交互歩行を促すため、上記の様な患者では運動学習が図りにくいことが考えられる。一方で、従来の3動作歩行練習では、速性の低下や2動作歩行への移行に時間がかかるとされるが、麻痺側下肢へ意識が向き、フィードバックが得られやすい。今回、回復期病棟入院中で重度感覚障害と左USNを重複した重度片麻痺患者において、麻痺側下肢を意識させて行う運動学習を目的に3動作歩行練習を実施したところ、監視歩行を獲得したので報告する。【症例紹介】53歳男性、右被殻出血、X.X.X発症、X+8日 内視鏡下脳内血腫除去術、X+29日当院転院、X+203日 自宅退院入院時:JCS1 、Brunnstrom Stage(以下、BRS) 左下肢Ⅰ、Stroke Impairment Assessment Set(以下、SIAS) 総点19点[SIAS-L/E(運動機能-下肢) 0・SIAS-Trunk(体幹) 2・SIAS-S (感覚)0]、高次脳機能 左USN(BIT 125/146点)・重度注意障害、基本動作 端座位 見守り・移乗 重度介助・移動 車椅子全介助・その他は中等度介助レベル、歩行は長下肢装具を使用し3動作揃え型の伝い歩きにて重度介助レベル、機能的自立度評価表(以下、FIM)48点 [運動25(移乗2・歩行1・階段1)/認知23]【経過】退院時:JCS0、BRS 左下肢Ⅲ、SIAS総点26点(SIAS-L/E 4・SIAS-Trunk 6・SIAS-S 0)、高次脳機能 左USN軽減(BIT141点)・注意障害軽減、基本動作 歩行以外は全て修正自立・移動は車椅子で自立、歩行は4点杖と短下肢装具を使用し3動作前型歩行にて屋内見守りレベル、FIM94点 [運動65(移乗6・歩行1・階段4 )/認知29]【考察】評価結果から、麻痺側下肢・体幹機能の改善、またUSNや注意障害などの高次機能障害の改善が示された。運動学習には内的フィードバックおよび外的フィードバックが必要であるが、本症例は重度感覚障害およびUSNのため麻痺側下肢からの感覚フィードバック、視覚による代償が得られにくい状況にあった。3動作歩行は、2動作歩行に比べ1歩行周期にかかる時間が延長され随意的な下肢の運動を促すことができる。そのため、より麻痺側下肢への注意を促すことが可能となり、歩行の運動学習に必要な内的フィードバックをもたらしたと考えた。また、運動学習に適した環境下での反復練習の継続により運動学習が成立したと考えられた。麻痺側下肢の使用を意識させながら行う3動作歩行練習は、感覚障害や高次機能障害を呈した患者に対して、運動学習とともに高次機能障害への働きかけによる改善が期待できると思われた。【倫理的配慮,説明と同意】症例報告を行うにあたり、対象者に対してヘルシンキ宣言に従い報告する内容を説明し、同意を得た。