著者
板東 美智子
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-12, 2017-03-05

本稿は、日本語の複雑述語「V + -そうだ」のV と「-そうだ」の間に介在する時制の形態素の有無、あるいは、分布を観察し、その有無/分布と「-そうだ」補部の埋め込み節の統語的意味的特徴との相関性を考察する。最初に、連用形のV に「-そうだ」が接辞する形を観察する。Vの描く出来事の開始直前の状況が観察可能なとき、その「-そうだ」はアスペクト補助動詞と分析し、補部をVP とする。次に、「V-て(い)-そうだ」の文を観察し、この「-そうだ」は話者が同時に起きている他所の状況を「推測」する法助動詞であることを示す。またこの同時点の「推測」は、「-て」を時制と仮定する先行研究を参考に、「-そうだ」補部のTP (/AspP) がもたらす解釈であると仮定する。最後に、「V-{る/た}-そうだ」の文について、この「-そうだ」は先行研究に従って終止形を伴う「伝聞」の法助動詞とし、pro 主語とCP 補部を伴うことを述べる。
著者
板東 美智子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

・日本語のテンス形態素の意味構造と過去時制を持つ使役文の意味構造の包括的記述結果状態をキャンセルできる読みをもついくつかの使役詞文が報告されているが、キャンセルの可/不可は、動詞の使役意味構造のどの部分に焦点が当てられているか(Event Headedness)という観点から説明がなされている。また、その結果状態をキャンセルする読みをテストするには文を過去形にする必要があることから、使役他動詞文のEvent Headednessと「た」の関連性を述べ、それぞれの意味構造を表すとともに、両者の関連性の形式化を行った。・日本語心理動詞のアスペクト的意味構造とその動詞を持つ文のアスペクト的意味構造の包括的記述日本語心理動詞と共起する「に」名詞句と「を」名詞句の使い分けと、その動詞および文のアスペクトとの関連性を指摘した。また、共起する名詞句の特徴によって同じ心理動詞でもアスペクトが異なる現象から、レキシコンには実現可能なアスペクトの候補が記載されていることを仮定した。・多義派生の仕組みとその形式化他動詞「締める」「絞める」「閉める」の意味的連続性が動詞の語彙概念構造と目的語名詞句の特質構造の組み合わせから生じていることを形式的に示し、レキシコンにおける「しめる」の多義性派生のメカニズムを提案した。・本研究の教育・語用論の分野への応用の試み附属養護学校中学部の国語の授業の会話から時間表現に関するコミュニケーションギャップを観察し、その要因を時間の理解の難しさから生じている可能性を検討した。また、劇中のユーモア分析から、時間をもった文脈の解釈をわざと取り違えることによって生じるユーモアがあることを指摘した。