著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.105-150, 2018-03-05

日本語に音節構造が存在するかという問題については、これまでに多くの議論がなされてきた。Labrune (2012) は日本語に音節が存在することを否定しているが、窪園・本間(2002) や川原(2014) は、日本語に音節が存在する多くの証拠を提出している。この問題に答えるため、本研究は撥音・促音・長音を含む付属モーラの構造と素性に注目した。結論として、付属モーラは“C/V”スロットを持っておらず、付属モーラの異音を引き起こす要因はコーダ位置という性質であることを述べる。このことは、日本語がモーラの上位構造として音節を持つことを示す。さらに、促音は空のスロットではなく、撥音と同様に基底形の段階で音韻情報を持っていることを提案する。
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-42, 2019-03-05

Boys Love をテーマとするマンガは、過激な性行為を描きながらも、男性向け成人マンガとは明らかな相違を見せる。性行為の場面において、男性向けマンガが常に女性の裸を提示することに専心するのに対して、BL ジャンルは〈受け〉と〈攻め〉の両方の身体を描写する。これは女性が両者に感情移入可能な性であるばかりでなく、〈攻め〉=男性としてふるまいたいという欲望を持っていることも示している(ファルス願望)。この欲望は、精神分析学的には、〈父〉の登場によって母の独占を禁じられた女児が、父に「変身」することによって、父が母を所有していたように母を得ようとしているのだと考えられる。しかし、母と同じ性である彼女にそれがかなうはずがない(=彼女がまとっている父の性は「仮装masquerade」でしかない)。そこで、娘は性的体制が確立する以前(=前エディプス期)の母との関係の回復を目指す。そうすることで、彼女は母との合一を果たし、性器体制の外にある愛を成就しようとする。ここにBL ジャンルが同性愛をテーマとした理由がある。女性達は、ファルス願望の実現を通して、実は「非性」という「同性愛homosexual」の物語を楽しんでいるのである。
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.13-22, 2018-03-05

『君の名は。』ヒットの要因はいろいろと分析されているが、この作品が日本的悲恋物の系譜に属する作品であったことが大きいと考えられる。日本人は近松浄瑠璃の昔から、共同体の制度や倫理に阻まれて、死に行く恋人たちの物語を好んで消費してきたが、こうした障害は社会の発展・民主化とともに、1960 年代は〈難病〉へと姿を変え、80 年以降、新しい要素として〈時間〉が現れた(『時をかける少女』)。『君の名は。』も、「時の隔たり」が恋人達を引き裂いているという点において、この伝統に連なる作品だと言える。 また、彼らの恋愛成就とヒロインの住む町の運命が一体となっていることは(=セカイ系)、それまで恋人達の敵であった共同体が、彼らの恋愛成就を助ける側となったことを意味し、日本的悲恋が新しい物語形態(=共同体との和解)を採用するに至ったことを示している。『君の名は。』のラストは、「歴史の流れ不変の原則」に基づいた「忘却のルール」が破られる展開となっており、これは旧来の共同体が力をもてなくなった現代の日本社会において、00 年代以降の大衆の嗜好に合致するものとなっている。 このように、『君の名は。』は日本的悲恋の伝統を受け継ぐ形で、「時間」という障害を採用しながらも、そのルールを変える新しい結末を用意したことが、全世代的なヒットに繋がったと考えられる。The animated movie "Your name" by Makoto SHINKAI was the biggest hit of the year 2016 ; it took about 24300 million yen at the box office. What made "Your name" such a smash hit ? The first reason is that it follows the dramaturgy of the tragic Japanese love story, although tragic love stories have gradually changed over time. In Japanese cinema lovers used to be separated by social obstacles, morals and ethics, but in the 1960s this changed. In movies such as "The Heart of Hiroshima" by Koreyoshi Kurahara 1966 etc. serious disease became the main reason that lovers could not be together. Then in the 1980s in "The Girl who leapt through Time" by Nobuhiko OHBAYASHI (1983) it changed again and time gap caused lovers to give up their love. The second reason is that "Your name" has made a reconciliation with the community, because the destiny of the heroine's town is connected deeply with the achievement of their love. The former point could make middle aged and older people go to the theater and the latter attracts all generations who recently tend to tolerate the transgression of the norms of the community and the society. That is the why "Your name" is a big hit.
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.20, pp.89-126, 2017-03

差異の体系は分節音の構造に本質的な役割を果たす。しかし、要素理論で使われる音韻要素は、こうした体系を直接的には表現できない。そこで本稿では、C/D モデル(藤村2007) に立脚しながら、差異の体系を支える音韻要素の内部構造について検討を行う。The system of distinction plays an essential role in the structures of segmental sounds. The phonological elements of the Element Theory, however, cannot expresses the system of difference directly. This paper explorers the inner structures of the phonological elements that support the system of distinction from the view point of the C/D model (Fujimura 2007).
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.8, pp.31-42, 2019-03

Boys Love をテーマとするマンガは、過激な性行為を描きながらも、男性向け成人マンガとは明らかな相違を見せる。性行為の場面において、男性向けマンガが常に女性の裸を提示することに専心するのに対して、BL ジャンルは〈受け〉と〈攻め〉の両方の身体を描写する。これは女性が両者に感情移入可能な性であるばかりでなく、〈攻め〉=男性としてふるまいたいという欲望を持っていることも示している(ファルス願望)。この欲望は、精神分析学的には、〈父〉の登場によって母の独占を禁じられた女児が、父に「変身」することによって、父が母を所有していたように母を得ようとしているのだと考えられる。しかし、母と同じ性である彼女にそれがかなうはずがない(=彼女がまとっている父の性は「仮装masquerade」でしかない)。そこで、娘は性的体制が確立する以前(=前エディプス期)の母との関係の回復を目指す。そうすることで、彼女は母との合一を果たし、性器体制の外にある愛を成就しようとする。ここにBL ジャンルが同性愛をテーマとした理由がある。女性達は、ファルス願望の実現を通して、実は「非性」という「同性愛homosexual」の物語を楽しんでいるのである。
著者
金丸 彰寿
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要 = Journal of Kobe Shoin Women's University : JOKS (ISSN:2435290X)
巻号頁・発行日
no.1, pp.135-148, 2020-03-05

本稿では、社会福祉法人よさのうみ福祉会の理念と実践を分析することで、青年期・成人期以降における障害者の発達支援及び地域支援のあり方について検討した。よさのうみ福祉会は、「行政力」「地域力」「福祉力」の「三位一体」の取り組みを行っていた。そして、障害者の発達要求に基づいて発達支援及び地域支援が展開されていたことを明らかにした。発達支援は、なかま・職員・地域住民の連帯を通して、障害者の発達要求を地域の担い手として組織することである。地域づくりは、障害者と地域住民の要求を練り上げ、地域社会の民主的な連帯を支えるよう組織することである。この三位一体の取り組みの原動力になったのは、与謝の海養護学校づくり(1960 年代~)を継承・発展している、よさのうみ福祉会における地域福祉実践運動の蓄積であった。今後の課題は、「学びの作業所」や「専攻科」の実践と、よさのうみ福祉会の福祉支援における実践的な同異を探りつつ、発達要求に基づく障害者の発達支援及び地域支援のあり方をより精緻に検討することである。
著者
マレット ピーター J.
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.6, pp.37-47, 2017-03

ジェーン・オースティンは、作品名にもなっている主人公、エマについて、「私以外だれも好きになれそうにないヒロイン」と書いている。このように、文学作品では好感が持てるとは言い難い語り手や人物が登場する場合も多い。『嵐が丘』のヒースクリフ然り、さらには『ジーキル博士とハイド氏の怪事件』のハイド氏、『ロリータ』のハンバート・ハンバート、『華麗なるギャツビー』のジェイ・ギャツビー、『日の名残り』のスティーブンス、そして『ソーラー』のマイケル・ビアードもまた然りである。本稿は、2016 年10 月30 日に徳島大学で開催された第9 回Japan Writers Conference (JWC) で発表しており、今回は人から好かれにくい人々が登場する作品がどのように成功をおさめ、主人公が魅力的でないにもかかわらず、なぜ読者が物語に引き込まれるのかを考察する。"I am going to take a heroine whom no one but myself will much like," wrote Jane Austen of her eponymous protagonist Emma. Literature is populated with narrators and main characters who are not likeable: Heathcliff (Wuthering Heights), Mr Hyde (The Strange Case of Dr Jekyll and Mr Hyde), Humbert Humbert (Lolita), Jay Gatsby (The Great Gatsby), Stevens (Remains of the Day) and Michael Beard (Solar). This paper, originally presented at the 9th Japan Writers' Conference at Tokushima University on 30 October 2016, will examine how the novels in which these characters appear achieve success, and why we care what happens, despite the unlikeable protagonists.
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:24352918)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.49-56, 2020-03-05

本研究では,C/D モデルの観点から日本語音声の時間特性について概観する.結論として,基底状態におけるモーラの重要性および基底状態に対するある固有の子音が持つ等時間性の性質について述べる.
著者
秋本 鈴史
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University = 文学部篇 : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-15, 2015-03

ここに紹介するのは、大正8 年から昭和3 年までの大阪の芝居の絵入役割番付43 種である。本学図書館に寄贈するにあたり、目録と共に資料の紹介を行い、近代歌舞伎や近代演劇などの研究資料として活用されることを願う次第である。本稿では次の3 つの側面を中心にして紹介する。第1 はこの時期、東京の歌舞伎界が歌舞伎座を中心に災害で混乱していたことであり、第2 は近松門左衛門の200 年忌の記念行事の時期にあたることである。さらに第3 として歌舞伎と大衆演劇・活動写真(映画)などとの関係などについても考えたい。The Forty-three kinds of Kabuki Banzuke of Osaka with pictures, from 1919 to 1928, which are all donated to the University Library by the author, are discussed in this article. The discussion focuses on the three facets of the situation surrounding the Banzuke. First, the period between 1919 and 1928 was an era when the Tokyo kabuki scene was still struggling in the chaos after the Kanto Earthquake. Second, the period conincides with the two hundred-year memorial of Chikamatsu Monzaemon, a prominent playwright in the Edo period. Finally, one could analyze the Banzuke in the light of the relationship between kabuki and the popular theater or movies.
著者
藤本 浩一
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Journal of the Faculty of Human Sciences, Kobe Shoin Women's University = 人間科学部篇 : JOHS (ISSN:21863849)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-16, 2017-03

中高教職課程履修生1 回生21 名にインクルーシブ教育についての3 つの質問を行った。Q1もしもあなたが教師3 年目で、担当するクラスに発達障害児童生徒がいたらどう思いますか。また、あなたはどんな心配や悩みがありますか。自由に記述して下さい。Q2 もしもあなたが健常児童生徒の保護者なら、自分の子どもが発達障害児童生徒と一緒に教育を受けることをどう思いますか。自由に記述して下さい。Q3 発達障害児童生徒にとって、健常児童生徒と一緒に教育を受けることについて、自由に記述して下さい。学生たちは調査のために、3 回の発達障害授業の前後に質問に回答し、調査結果として、事前・事後の比較による検討が行われた。彼らの自由記述は、KHcoder というソフトによって解析され、それぞれの共起ネットワークを比較した。学生たちは事前調査では発達障害児をどう扱うかを心配していたが、授業後には、対象児への理解や相談によって子どもたちが成長する重要性に気づいた。学生たちは3 回の授業によって、発達障害についての適切な知識と理解を得た。このことは彼女らが3 人称から2 人称の気持ちに変化したことを示している。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.19, pp.57-100, 2016-03

弁別素性の概念はローマン・ヤーコブソン以降、様々な形で研究されてきた。近年でも、弁別素性間の階層理論や過小指定、最適性理論における入力情報の完全指定と多様性といった形で議論が続いている。その中で、これらの概念が持つ多くの利点と、いくつかの問題点が明らかにされてきた。例えば、ソシュールの言う「差異の体系」に関する表示の問題や計算システムの並列性/直列性に関わる問題などが挙げられるであろう。その中で、統率音韻論などの要素理論で採用されている「音韻要素(phonological elements)」は、過小指定や素性階層の性質を反映すると共に、表示の完全性という点でも、離散的カテゴリーとプロトタイプカテゴリーの統合という点でも、こうした問題をクリアできる利点を持つ。しかし、その内部構造については十分な議論がなされていない。本稿では、C/D モデル(藤村2007) に立脚しながら、要素理論における「閉鎖要素」と「摩擦要素」の性質について検討を行う。
著者
黒木 邦彦
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.85-93, 2018-03-05

本稿では、西日本方言の否定過去動詞接尾辞-(a)naNda (e.g. 知らなんだ、上げなんだ) などが内包する-(a)naN- の起源を、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-} の同族に求める。-(a)naNda は、その音形と意味とを踏まえれば、-(a)naN- と-da {-(i)tar-} とに分析できよう。-(a)naN- の基底形は、テ形接尾辞に先行する動詞語幹の末尾子音n、m、b が東日本方言などにおいてN で実現することを考慮するに、{-(a)nan-}、{-(a)nam-}、{-(a)nab-} のいずれかであろう。これらのうち、{-(a)nan-} は、否定動詞接尾辞{-(a)n-} の連続体と見做しうる。しかし、このように考えるのであれば、種々の否定表現のうち、否定過去表現においてのみ否定接尾辞を重ねる動機や意義を説明せねばなるまい。一方、**{-(a)nam-, -(a)nab-} は、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-}に音形と意味との両面で類似するものの、その確例はどの時代・地域にも見当たらない。ただし、**{-(a)nam-, -(a)nab-} と{-(a)nap-} とについては、音声的・音韻的妥当性に富む派生関係を考えうる。更に、**{-(a)nam-, -(a)nab-}起源説は、「ナツタ」「ナムシ」とそれぞれ表記される、2 種類の否定過去動詞接尾辞の存在を説明するに良い。
著者
黒木 邦彦
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.21, pp.85-93, 2018-03

本稿では、西日本方言の否定過去動詞接尾辞-(a)naNda (e.g. 知らなんだ、上げなんだ) などが内包する-(a)naN- の起源を、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-} の同族に求める。-(a)naNda は、その音形と意味とを踏まえれば、-(a)naN- と-da {-(i)tar-} とに分析できよう。-(a)naN- の基底形は、テ形接尾辞に先行する動詞語幹の末尾子音n、m、b が東日本方言などにおいてN で実現することを考慮するに、{-(a)nan-}、{-(a)nam-}、{-(a)nab-} のいずれかであろう。これらのうち、{-(a)nan-} は、否定動詞接尾辞{-(a)n-} の連続体と見做しうる。しかし、このように考えるのであれば、種々の否定表現のうち、否定過去表現においてのみ否定接尾辞を重ねる動機や意義を説明せねばなるまい。一方、**{-(a)nam-, -(a)nab-} は、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-}に音形と意味との両面で類似するものの、その確例はどの時代・地域にも見当たらない。ただし、**{-(a)nam-, -(a)nab-} と{-(a)nap-} とについては、音声的・音韻的妥当性に富む派生関係を考えうる。更に、**{-(a)nam-, -(a)nab-}起源説は、「ナツタ」「ナムシ」とそれぞれ表記される、2 種類の否定過去動詞接尾辞の存在を説明するに良い。In this paper I consider that -(a)nan- in the negative-past verb suffix -(a)naNda and similar suffixes in Western dialects of Japanese is derived from cognates of the negative verb suffix {-(a)nap-} in Eastern dialects. -(a)naNda can be divided into -(a)naN- and -da {-(i)tar-} on the basis of its form and meaning. The underlying form of the -(a)naN- would be {-(a)nan-}, {-(a)nam-}, or {-(a)nab-} because {n}, {m}, and {b} at the ends of verb stems are realized as N as in Eastern dialects when followed by a sandhi verb suffix. Although {-(a)nan-} can be regarded as a sequence of the negative verb suffix {-(a)n-}, we cannot explain why this negative suffix is duplicated only in negative-past expressions. **{-(a)nam-} and **{-(a)nab-} resemble the negative verb suffix {-(a)nap-} in Eastern dialects both formally and semantically, whereas certain evidences of **{-(a)nam-} and **{-(a)nab-} are never seen in any area and period. However, as for **{-(a)nam-, -(a)nab-} and {-(a)nap-}, we can find out phonetically and phonologically valid derivation between them. The theory based on presumption that **{-(a)nam-} and/or {-(a)nab-} existed in former times is good to explain existence of the negative-past verb suffixes ナツタand ナムシ.
著者
西川 純司
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要 = Journal of Kobe Shoin Women's University : JOKS (ISSN:2435290X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-9, 2020-03-05

かつてミシェル・フーコーが「生命=史」(bio-histoire)と呼んだ、人類と医学的介入の関係の歴史を記述することは、現在においても重要な課題として残されている。本稿は、戦前日本のサナトリウム(結核療養所)で主に結核患者を対象に行われていた日光療法という医療実践の一端を明らかにするものである。とりわけ、正木不如丘(1887-1962)が行っていた医療実践を事例とすることで、近代日本の結核をめぐる「生命=史」の端緒を開く試みとしたい。 明治以降の近代化を社会的背景に、結核は人びとの生を脅かす伝染病として大正・昭和初期の社会で蔓延していた。そうしたなか、日光(紫外線)に結核菌を殺菌する作用があるということが発見されると、1920 年代半ばまでには日本においても日光の紫外線を利用するサナトリウムが見られるようになった。しかし、実地での治療は容易ではなかったことから、富士見高原療養所の正木は日光療法を行うための最適な条件―日光浴場の配置や構造、設備など―に細やかな注意を払う必要があった。また、日光療法の科学的根拠を発見することができなかったがゆえに、正木は苦悩しながら日光による治療を実践していた。
著者
黒木 邦彦
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.19, pp.29-41, 2016-03

鹿児島県北薩地方の伝統方言は、不完成相に相当する複合形式VStm-iØ+kata=zjar-と抱合形式NSTM+VStm-iØ=zjar- (V: 動詞; N: 名詞; STM: 語幹) を有している。本稿では、両不完成相の形態統語的特徴を分析し、次のことを明らかにした。(1) 複合不完成相においても抱合不完成相においても連濁は生じず、両不完成相に含まれるVSTM-iØの末尾音節は連声し、直前の音節のコーダとなる。(2) 複合不完成相の構成要素たるVStm-iØ+kata の声調型も、抱合不完成相の構成要素たるNStm+VStm-iØのそれも第1 語根に拠るので、音韻的には1 語に相当する。(3) 動詞派生接尾辞に関して言えば、複合不完成相の動詞語幹は-sase-, -rare-, -cjor- を、抱合不完成相のそれは-sase- だけを内包しうる。(4) 複合不完成相はほとんどの動詞語幹から作りうるが、抱合不完成相は基本的に、動作の対象を対格助詞=o で標示する対格動詞語幹からに限られる。(5) +ik-iØ=zjar- 型のものを除けば、抱合不完成相が内包する名詞語幹は動作の対象を指すものに限られる。(6) 両不完成相で連体節を作る際は、=zjar-ruが連体節を作りえないため、=no がその代わりを果たす。(7) 複合不完成相は形態的には非対格述部に通じるが、統語的には対格述部に通じる。一方、抱合不完成相は、対象を指示する名詞を抱合してこそいるが、対格補部を取るわけではない。したがって、形態的にも統語的にも非対格述部の範疇を出ない。The Hokusatsu dialect of Japanese has compounding and incorporating imperfectives composed of VStm-iØ+kata=zjar- and NStm+VStm-iØ=zjar- (N: noun;Stm: stem; V: verb) respectively. The final syllables of VStm-iØ in both of the imperfectives turn into the coda of the previous syllable by sandhi. VStm-iØ+kata and NStm+VStm-iØ in the imperfectives are equivalent to a phonological word because their word tones are based on the first root as in phonological words in the dialect. The compounding imperfectives can be made from most verb stems, whereas the incorporating imperfectives cannot. The incorporating imperfectives are made from verb stems to attach the accusative enclitic =o to a noun denoting a theme, and furthermore, are able to contain only noun stems marked by =o. The compounding imperfectives are morphologically equivalent to a nontransitive predicate but are syntactically similar to a transitive predicate in terms of case marking. On the other hand, the incorporatong imperfectives share no morphological and syntactic features with an accusative predicate.
著者
SHIOBARA Frances
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University (JOL) (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.29-41, 2016-03-05

私は、オンラインでの多読を通じて自律学習を促進する方法を研究したいと考えています。長年にわたり、多読は、第二言語学習者にとって、言語習得のための最も効果的な方法の1 つであることが知られています。多読はリーディングスキルを伸ばすだけでなく、語彙やライティング、文法の正確さも高めることができます。私が使用したいと考えているアプリケーションは、Raz-Kids(Learning A to Z, https://www.raz-kids.com/)と呼ばれるものです。これは、英語ネイティブ・スピーカーの小学生を対象とするリーディング・アプリケーションです。このアプリケーションは大学生用に作られてはいませんが、日本人の大学生のリーディングレベルはこのアプリケーションに最適です。この研究は学生のアプリケーションで読むことに対する態度を調べます。
著者
池谷 知子
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.55-70, 2016-03-05

日本語を母語としない日本語学習者(留学生)にとって、日本人との交流授業が有効であることは知られているが、留学生との交流が日本人学生にどのような影響を与えるのかということはあまり明らかになっていない。なぜなら留学生がキャンパスにいることが、本当に「国際化」を促しているのかはなかなか検証しにくい問題であるからである。キャンパス内にいる留学生と授業を通して交流することが、自然に多文化共生を学ぶ機会となり、日本人学生の意識の内側から「国際化」を促していることを確認していく。また、それは学年が上がるごとに強くなっており、キャンパスの国際化に対して、海外へ学生を送り出す以上に、日常生活で様々な文化的な背景をもった留学生と交流し意見を交わすことが、大きな役割を果たしていることをデータからみていく。
著者
松井 理直
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:24352918)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.27-44, 2021-03-05

日本語の開拗音に関する解釈には、“CjV”,“CjV”,“CiV”という可能性が存在する。音韻情報としては、一般的に/CjV/と捉えられることが多い。音声情報としても、Nogita (2016)およびHirajama&Vance (2018)は[CjV]という構造が妥当である根拠を提出している。本研究では、コーパスや調音運動に関する生理学的データの性質から、拗音の音声情報について検討を行った。測定の結果、先行研究と同じく開拗音は[CjV]構造を持つと考えるのが妥当と考えられる。
著者
久津木 文 田浦 秀幸
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.41-48, 2019-03-05

幼児期の二言語獲得は実行機能系やそれと関連する他者理解の能力を促進することが他研究で示されてきたが、早期からの外国語学習や日本語を含む二言語同時獲得の認知的な影響についての知見はほとんど存在しない。本研究では日本語を母語とし早期から英語を学習する幼児を対象に、早期からの外国語学習の認知的な影響を実行機能及び他者理解(心の理論)の観点から検証した。英語力と心の理論課題との関連が示され、英語の語彙を学ぶことが、他者理解を促進する可能性が示唆された。また、英語力が特に葛藤抑制と関連を示し、英語の語彙学習が葛藤抑制能力に影響している可能性が示唆された。また、心の理論と在園期間は関連を示したが葛藤抑制と在園期間は関連が示されなかったことから、葛藤抑制課題の反応時間や成績は言語によって促進された認知能力を反映するのに対し、心の理論課題の成績は社会的経験や社会的能力をより反映することが示唆された。以上のことから、普段から頻繁な使用や言語の切り替えがなくとも、幼少期の外国語学習は、認知に影響を与える可能性があることが示唆された。
著者
板東 美智子
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-12, 2017-03-05

本稿は、日本語の複雑述語「V + -そうだ」のV と「-そうだ」の間に介在する時制の形態素の有無、あるいは、分布を観察し、その有無/分布と「-そうだ」補部の埋め込み節の統語的意味的特徴との相関性を考察する。最初に、連用形のV に「-そうだ」が接辞する形を観察する。Vの描く出来事の開始直前の状況が観察可能なとき、その「-そうだ」はアスペクト補助動詞と分析し、補部をVP とする。次に、「V-て(い)-そうだ」の文を観察し、この「-そうだ」は話者が同時に起きている他所の状況を「推測」する法助動詞であることを示す。またこの同時点の「推測」は、「-て」を時制と仮定する先行研究を参考に、「-そうだ」補部のTP (/AspP) がもたらす解釈であると仮定する。最後に、「V-{る/た}-そうだ」の文について、この「-そうだ」は先行研究に従って終止形を伴う「伝聞」の法助動詞とし、pro 主語とCP 補部を伴うことを述べる。