著者
林 彦櫻
出版者
社会経済史学会
雑誌
社會經濟史學 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.3-23, 2015-05-25

戦前から「過剰」と言われる零細小売業は1950年代後半から80年代初頭にかけて外部環境の変化にもかかわらず一貫して増加した。その背景として,市場の拡大と消費構造の変化等様々な要因があるが,本稿は店主の供給源に着目し,この間の零細小売業内部の変化を検討した。店主の供給源を家業継承者,前職店員の独立開業者と,その他の開業者に分けてみると,これらの類型には業種分布の違い,開業パターンの違い,更に存続期間の違いがみられた。1970年代以降,家業継承者と独立開業者という供給源は相対的に縮小しつつあると推測される。それは家業継承者の就業選択の変化と若年店員の減少等の供給側の要因がある一方,技術の発展,流通機構の変化,規制の緩和とともに,従来では斯業経験が必要な業種でも参入障壁が低くなり,家業継承者と独立開業者の存立基盤が縮小したことも重要な要因であると考えられる。1980年代以降,後継者難や廃業率の上昇によって零細小売業が急激に衰退するが,この時期の供給源の変化はその端緒であると考えられる。