著者
林 貴啓
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.70-76, 2008

本論考は、『物質と記憶』『創造的進化』などで知られるH. ベ ルクソンを「スピリチュアリティの哲学者」として再評価するこ とを目的とする。スピリチュアリティの立場の妨げの一つは、そ の志向が現代社会で支配的な世界観―機械論的世界観、自然科学 的実証主義―と衝突することである。ベルクソンの創造的持続の 哲学は、こうした近代主義的世界観を乗り越える道を今なお示唆 しうる。さらに分析的知性・言語とは別のしかたで創造的なリア リティに触れる「直観」という道を示した認識論は、決して反知 性主義ではなく、既存の知の枠組みを打破し、より高次なリアリ ティを開示するものであり、確かな方法論に裏打ちされている。
著者
林 貴啓
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 共生人間学専攻 カール・ベッカー研究室
雑誌
いのちの未来 = The Future of Life (ISSN:24239445)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.129-146, 2016-01-15

「道徳的想像力」は、日本ではまだ認知度がきわめて低いが、英語圏の倫理学では特に注目を集めており、一般の論議でも使用されている概念である。本論考は、この道徳的想像力の実践・理論双方に対する示唆を探ってゆくことを目的とする。背景には、主流の合理主義的な倫理学に対する反省がある。実践的な意思決定の場面で倫理を実効あるものにするために欠かせない能力として、想像力の意義が注目されているのである。代表的な理論家であるジョンソンによると、一見純粋に合理的なものに見える倫理学説や意思決定の場面でも、想像力の資源が必ず働いているという。また道徳的想像力論は、「規範原理」の位置や、「道徳の全域化」の展望、絶対的な価値を欠く社会のなかでの客観性など、メタ倫理的な射程も含む。本論考ではこうした問いかけの意義を批判的見地も交えつつ吟味し、環境倫理や道徳教育などの実践的なテーマへの示唆も探ってゆきたい。