著者
林田 理恵
出版者
大阪外国語大学
雑誌
大阪外国語大学論集 (ISSN:09166637)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-17, 1990-09-20

異言語学習での母語の位置と役割という問題は、文法・翻訳式教授法-直接教授法-認知主義的教授法-コミュニケーション教育という主だった教授法の流れをみていくだけでも、それぞれの方法論の根幹に関わる問題として浮び上がってくることがわかる。昨今、生きた異言語教育とは何かという問題意識から、機能文法、コミュニケーション理論、言語心理学の発達に支えられ、体系としての言語の学習、単なる体系の利用としてのことばの学習から、活動の一環としての学習言語でのコミュニケーション活動(コミュニケーションを成立させるための、そして学習行為を成立させるための様々な心理的内面的要因までも考慮した)全体への学習へとその重点をかえていかなければならないという新しい課題が提出されている。そういった学習言語でのコミュニケーション活動を学習者に首尾よく習得させる上で母語の位置と役割をいかにとらえていけばよいか、異言語と母語による発話形成メカニズムの言語心理学的観点からの対照分析が必要とされている。当論文では、その第1部として、これまでの教授法の流れの中での母語の位置付けをまず概観、検討し、新しい教授法の課題の下での母語の問題の捉え方を提示して、その上で、発話形成メカニズムの操作プロセスにおける、母語と学習言語での異同点の大枠を示す。