著者
大田 英登 柏木 克友 磯村 隆倫 大川 裕行
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【はじめに】 </b>くも膜下出血発症直後から、急性期、回復期とリハビリテーション(以下リハ)を受けたが、ADL全般に介助を要する発症後19ヶ月の左片麻痺者を老人保健施設(以下老健)で担当した。本症例に対して、起立、歩行訓練を中心に積極的に理学療法を行った結果、ADLの介助量が軽減され自宅復帰となった。本症例を通じて、老健における重度片麻痺者に対する理学療法の重要性を再確認したので報告する。<br> なお、本報告にあたり、本症例には趣旨を説明し同意を得た。<br><b>【老健利用までの経緯】 </b>平成20年10月15日、脳出血を伴うくも膜下出血を発症、A病院で加療された。平成21年3月10日、リハ目的でB病院転院となった。同年7月14日C病院へ転院、9月14日退院し当老健入所となった。平成22年4月4日に車いすから立ち上がろうとして転倒、左大腿骨転子下骨折でC病院再入院、同月9日にCHS施行。8月6日当老健再入所後、担当を開始した。<br><b>【理学療法評価(平成22年8月7日)】 </b>症例は42歳男性。Brunnstrom recovery stage(以下Br-Stage)は左上肢、手指、下肢ともにII、非麻痺側筋力は上下肢共に4、感覚は表在、深部ともに鈍麻であった。軽度の半側空間無視、注意障害を認めた。<br> 基本動作は、起き上がりの際に体幹を起こすための介助を要した。移乗及びトイレ動作は、立ち上がり、衣服の上げ下げ、方向転換に介助を要した。歩行は、四点杖、KAFOを使用し、麻痺側下肢の振り出し、立位保持、重心移動に介助を要した。施設内での移動は車椅子駆動可能であったが、生活全般に人的介助を要していた。FIMのスコアは88/126点であった。<br><b>【理学療法プログラムおよび経過】 </b>理学療法は、起立-着座訓練、下肢装具を用いた歩行訓練を中心とした運動療法を1日40分程度、週4日実施した。<br> 訓練開始1ヶ月後にBr-StageはⅢとなった。同時期にKAFOはAFOに変更可能となった。<br> 退所時(平成23年2月28日)には、四点杖とAFOを使用し軽度介助での歩行が可能となった。移乗及びトイレ動作は、立ち上がり、方向転換が手すりを使用し可能となった。FIMは94点に向上した。最終的な施設内の移動手段は車椅子であったが、移乗、トイレ動作の介助量が軽減したため自宅復帰となった。<br><b>【まとめ】 </b>急性期、回復期リハを受けたが、ADL全般に介助を要する慢性期重症片麻痺患者に対して積極的な起立・歩行訓練を約6ヶ月間実施したところ、介助量が軽減し自宅復帰が可能となった。起立訓練は非麻痺側・麻痺側への刺激、全身の筋力強化、バランス能力向上に有効であり、下肢装具を利用した歩行訓練は、起立や移乗動作等、ADL能力の向上に有効な治療手段である。今回、慢性期重症片麻痺患者でもその効果が確認された。維持期に位置付けられる老健の利用者にも機能回復の可能性があることに留意し、積極的な起立・歩行訓練を実施する必要がある。