- 著者
-
柚木 大和
- 出版者
- 大阪歯科学会
- 雑誌
- 歯科医学 (ISSN:00306150)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.2, pp.g65-g66, 1993-04-25 (Released:2017-03-02)
顎口腔領域における悪性腫瘍切除後の広範囲な軟組織欠損に対する再建には, しばしば有茎皮弁が用いられる. 糖尿病患者の場合, 術後感染や創傷治癒遅延を起こしやすく, 糖尿病性細小血管症による微小循環障害がその原因の一つといわれているが, その詳細ほいまだ明らかでない. そこで今回, ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット背部皮膚に有茎皮弁を作製し, 糖尿病性細小血管症における皮弁先端部の生着過程の変化を観察し, 検討した. 実験方法および観察方法 生後6週齢Wistar系雄性ラット(体重180g)を用い, ストレプトゾトシン(SIGMA社製, 以下STZと略す.)を大腿静脈より1回投与(60mg/kg)し, STZ投与前の平均血糖値145.6mg/dlの約2倍(300mg/dl以上)の血糖値を示したラットを糖尿病発症ラットとした. 糖尿病発症後8週, 16週(以下DM8週群, DM16週群と略す.)の各時期に, 尾側に茎をもつ, 3×1cmの有茎皮弁を作製した. 皮弁は, 筋肉層(Panniculus carnosus)直下の疎性結合組織層で剥離挙上後, 元の位置に復位しナイロン糸にて縫合した. なお, STZ非投与群を対照群とした. 術後3, 5, 7日および2週に屠殺し, 10%中性ホルマリンで固定したのちセロイジン包埋し, 薄切後ヘマトキシリン・エオジン染色を施し, 組織学的に観察した. また太田ら(1990)の方法を用いて上行大動脈より樹脂を注入し, 樹脂硬化後5%水酸化ナトリウムにて軟組織を除去し, 乾燥させ血管鋳型標本を作製した. 同標本に金蒸着を行い, 走査電子顕微鏡(JSM-T300, JEOL)にて観察した. 結果 1)対照群 術後3日には, 創は表皮で覆われ, 真皮上行血管の分枝に新生洞様血管が形成され術後5日には表層付近の真皮上行血管から伸展した新生洞様血管が裂隙を横切って吻合していた. 術後7日には接合部の乳頭層血管網が形成され, 真皮上行血管も新生血管によって吻合していた. 術後2週では乳頭層血管網の血管の太さを増し, その数を減じ, 接合部の境界は不明瞭になっていた. 2)実験群 DM8週群は, 組織学的には術後2週まで炎症性細胞がわずかに残存し, 対照群と比較してやや遅延していたが, 血管構築においては対照群とほぼ同様であった. DM16週群では, 術後5日で表皮は厚みを増して連続性を回復し, 真皮層では炎症性細胞が密にみられ, 術後2週では真皮層の炎症性細胞は, 表皮直下ではほとんど消失し, 深層では散在性に残存していた. 電子顕微鏡学的には, 術後5日に真皮上行血管の分枝に新生洞様血管が形成されていたが, 裂隙を横切る吻合はなく, 術後7日には裂隙を横切って吻合している新生洞様血管もみられ, 術後2週では真皮上行血管から伸展した新生洞様血管が裂隙を横切って互いに吻合していた. 対照群, DM8週群と比較すると, 組織学的においても, 血管構築においても治癒が遅延していた. 以上の結果より, 実験群では対照群と比べると, 炎症性細胞が術後2週まで残存し, さらに糖尿病性罹病期間が長期になると, 残存している炎症性細胞の数が多くみられ新生血管形成も遅れていた. また, 皮弁移植手術の創傷治癒過程において糖尿病性罹病期間が長期になると, 線維芽細胞の増殖および新生血管形成の遅延がみられ, 表皮直下に比べると真皮深層の治癒が遅れる点に留意して治療にあたる必要があると考えられた.