著者
瀧川 幸司 佐藤 充徳 柳 麻子 浅岡 壮平 山下 伸夫 中西 良孝 萬田 正治 柳田 宏一 早川 博文
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.37-41, 1997-04-30
被引用文献数
1

放牧地における糞食性コガネムシ類(以下,フン虫と略)の牛糞処理活動が牛糞消失量と不食過繁地の存続期間に及ばす影響について検討した。1994年7月に黒毛和種繁殖牛を輪換放牧しているイタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)主体の草地に新鮮放牧牛糞1kgを置き,糞塊へのフン虫飛来を人為的に妨げた無フン虫区,糞を自然状態にしたフン虫区および対照区として無糞区を設けた。糞設置日に早川式ザル法により1kgの牛糞塊に飛来したフン虫を採集し,その個体数を記録した。糞設置後1週間目の糞の消失量を求めるとともに,糞設置後の牛糞塊面積の変化を調べた。糞塊周辺の草丈を測定し,その経日変化を検討した。調査は1994年7月から1995年5月まで行った。1kgの牛糞塊には平均726.6頭のフン虫が飛来し,その中で牛糞を土中に埋め込む能力を持つゴホンダイコクコガネとカドマルエンマコガネは7.2%であった。糞設置後1週間目の糞の乾物消失率については,無フン虫区で6.9%,フン虫区で23.0%であり,フン虫区が有意に高かった(P<0.01)。糞塊面積については,無フン虫区で日間差がほとんど認められなかったものの,フン虫区では糞設置後6日目に有意に増加した(P<0.05)。しかし,いずれの糞塊とも糞設置後282日目には消失していた。糞設置後20日目における草丈はいずれの処理区とも対照区と比べて高く(P<0.01),この時期に不食過繁地の形成が認められた。糞設置後20-300日目では,各処理区間の草丈に有意差は認められず,いずれの区の草丈も漸減した。無フン虫区およびフン虫区における不食過繁地は,いずれも280日間存続した。これらのことから,フン虫は1週間で新鮮牛糞の約4分の1を消失させるものの,不食過繁地の存続期間に及ぼす影響はほとんど認められないことが示唆された。