著者
柳井 連雄
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.282-309, 1961-12-28 (Released:2007-10-19)
参考文献数
98
被引用文献数
17 33

台風の発生機構を力学的に説明することを試みた。台風の発生とは,既存の大規模な低緯度擾乱が激しい自由対流に転化することであると考える。第一章で大気中に起る種々の自由対流,強制対流について一般的考察を行なつた。特に堰形渦中の自由子午面須環の発達速度を不安定成層,安定成層の各々の場合につき摂動の水平スケールの関数として論じた。台風のような大きいスケールを持つ擾乱の発達を説明し得るものは安定成層中の傾圧性(すなわちradialな温度差)による力学的不安定であつて,これはFultzやHideによつて行なわれたdishpan実験中にみられ,Kuoによつて理論的に説明されている激しいHadley型対流の機構と本質的に同じである。第二章では実際の台風発生過程を三段階に分け,各々のstageにおいて支配的な機構を説明した。第一は偏東風波に伴う力学的強制上昇流の維持,第二はその強化と,その中での積雲対流の誘発,潜熱放出による中心部の温暖化,第三が形成された水平温度差が臨界値を越したときの激しいHadley型自由対流への転化である。要するに凝結熱は発生期においても台風の一次的垂直循環の直接的原因ではなく,それはwarm coreの形成,維持を通して重要なのである。