著者
柳村 裕
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.177-196, 2014-11

岡崎敬語の「丁寧さ」のレベルについて,第3次調査の結果を加えることで明らかになった敬語の大きな変化傾向を報告する。丁寧さが3回の調査を通して数十年にわたって増加し,特に第3次調査で大幅に増加したことが分かった。1940年代前後に生まれた人たちは,3度の調査の対象になったが,半世紀経って丁寧さを増やしている。「成人後習得(late adoption)」が丁寧さでも認められた。これは実時間(real time)による。一方,3回の調査すべてで,世代差という見かけの時間(apparent time)で,中年層以上が丁寧で,若年層はぶっきらぼうという傾向が見られる。また,場面による使い分けについては,依頼関係の有無という個人間の心理的関係に左右されるようになってきたことが読み取れた。さらに,話者の社会的属性と丁寧さの関係については,どの時代においても,女性の丁寧さが高く,学歴が高いほど丁寧さが高いことが分かった。そして,これらの話者属性は丁寧さの経年変化とも密接に関わることが分かった。すなわち,丁寧さの増加を牽引するのは男性であり,また,学歴の高い話者の割合が増加する高学歴化によって,全体の丁寧さが増加したと解釈される。
著者
柳村 裕 Yu YANAGIMURA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.205-225, 2017-01

東京外国語大学 特別研究員本研究では,岡崎敬語調査資料の分析に基づき,「敬語の使用」と「話者の職業」がどのような関係にあるかを探る。敬語使用の特徴に関わる指標として発話の「丁寧さ」と「長さ」を集計し,話者の職業は「事務系」「接客系」「労務系」の三つを区別した。これらの敬語使用の特徴が話者の職業によってどう異なるかを調べた。また,岡崎敬語調査資料の複数の調査時点での多様な生年・年齢の話者を比較することにより,職業による敬語使用特徴の差異のパターンがどのように変化してきたか,また,個人内でどのように変化するかを調べた。結果の概要は以下の通り。まず,事務系,接客系,労務系のうち,労務系が最も短くぞんざいに話す。事務系と接客系では,発話の長さは同程度であり,丁寧さは事務系のほうがわずかに高い。また,経年変化パターンに関して,接客系の話者は年齢が高くなるほど長く丁寧に話すようになる。つまり,言語形成期以降の加齢に伴う言語変化である「成人後採用」のパターンが観察される。事務系と労務系では,成人後採用は観察されないか,あるいは観察されたとしてもその変化幅が接客系のものより小さい。以上の分析結果に基づき以下のような解釈を行った。まず,敬語使用特徴の職業差は,職務の中での敬語使用の違いによるものとして説明できる。つまり,職務の中での敬語使用は,職務以外の私的な場面での敬語使用に影響を与えると解釈できる。また,職務の中での敬語使用の違いは,敬語の習得・変化のパターンにも影響すると解釈できる。以上より,職業という話者属性は,敬語の使用・習得・変化と,それらの社会的変異を理解する上で重要な話者属性の一つであるといえる。