著者
柳村 裕 Yu YANAGIMURA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.205-225, 2017-01

東京外国語大学 特別研究員本研究では,岡崎敬語調査資料の分析に基づき,「敬語の使用」と「話者の職業」がどのような関係にあるかを探る。敬語使用の特徴に関わる指標として発話の「丁寧さ」と「長さ」を集計し,話者の職業は「事務系」「接客系」「労務系」の三つを区別した。これらの敬語使用の特徴が話者の職業によってどう異なるかを調べた。また,岡崎敬語調査資料の複数の調査時点での多様な生年・年齢の話者を比較することにより,職業による敬語使用特徴の差異のパターンがどのように変化してきたか,また,個人内でどのように変化するかを調べた。結果の概要は以下の通り。まず,事務系,接客系,労務系のうち,労務系が最も短くぞんざいに話す。事務系と接客系では,発話の長さは同程度であり,丁寧さは事務系のほうがわずかに高い。また,経年変化パターンに関して,接客系の話者は年齢が高くなるほど長く丁寧に話すようになる。つまり,言語形成期以降の加齢に伴う言語変化である「成人後採用」のパターンが観察される。事務系と労務系では,成人後採用は観察されないか,あるいは観察されたとしてもその変化幅が接客系のものより小さい。以上の分析結果に基づき以下のような解釈を行った。まず,敬語使用特徴の職業差は,職務の中での敬語使用の違いによるものとして説明できる。つまり,職務の中での敬語使用は,職務以外の私的な場面での敬語使用に影響を与えると解釈できる。また,職務の中での敬語使用の違いは,敬語の習得・変化のパターンにも影響すると解釈できる。以上より,職業という話者属性は,敬語の使用・習得・変化と,それらの社会的変異を理解する上で重要な話者属性の一つであるといえる。