著者
田中 ゆかり 林 直樹 前田 忠彦 相澤 正夫 Yukari TANAKA Naoki HAYASHI Tadahiko MAEDA Masao AIZAWA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.117-145, 2016-07

日本大学日本大学統計数理研究所国立国語研究所 時空間変異研究系2015年8月に実施した,全国に居住する20歳以上の男女約1万人から回答を得たWeb調査に基づく最新の全国方言意識調査の概要と「方言・共通語意識」項目についての報告,ならびにその結果を用いた地域類型の提案を行う。「方言・共通語意識」項目は,「生育地に方言はあると思うか」「生育地の方言は好きか」「共通語は好きか」「ふだんの生活における共通語と方言を使う割合はどのくらいか」「ふだんの生活において共通語と方言の使い分けをしているか」「場面(相手)により生育地方言をどの程度使うか」の6項目である。これらについて,回答者の生育地と年代,生育地の生え抜きか否かに注目した分析を行った。その上でこの6項目の相互の関係から,12の地域は大きく7タイプ(首都圏・北海道/東北/北関東・甲信越・東海/近畿・中国/九州/北陸・四国/沖縄),細かく9タイプ(首都圏・北海道/東北/北関東/甲信越/東海/近畿・中国/九州/北陸・四国/沖縄)に分類された。
著者
藤本 灯 韓 一 高田 智和 Akari FUJIMOTO Yi HAN Tomokazu TAKADA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL Research Papers (ISSN:21861358)
巻号頁・発行日
no.21, pp.85-94, 2021-07

京都府立大学韓国国立釜慶大学 大学院生国立国語研究所 研究系 言語変化研究領域古代の日本の辞書には,様々な構造を持つものがあり,各辞書の構成や仕様を理解していなければ解読が困難な面があった。また注文から必要な情報を抽出するためには,隈なく目視で捜索する必要があった。順不同に入り組んだ注文の情報から,効率的に目的の情報に到達するためには,注文に存在する要素の属性が,それぞれ可能な限り定義づけられているべきである。本稿では,平安時代の代表的な漢和辞書である『和名類聚抄』を例として,いかにその構造を記述することが可能か,検討し,『和名類聚抄』の内容に適したタグを設計した。There were many kinds of dictionaries in ancient Japan. Therefore, without highly specialized knowledge, it is quite difficult for users to interpret their contents. Furthermore, users have been compelled to seek the necessary information based on visual observation of the dictionaries. To effectively find the required information within a complex description, a strict definition of the contents is required.This paper thus proposes a model for such a structured description and discloses the tagged data by using Wamyō-Ruijushō, a representative dictionary of the Heian Era in Japan.
著者
高嶋 由布子 Yufuko TAKASHIMA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.18, pp.121-148, 2020-01

日本学術振興会 特別研究員(RPD), 東京学芸大学危機言語としての言語研究が国際的に行われるようになって以来,手話言語はその枠組みに入れられてきていなかった。2006年,国連の障害者の権利条約で,手話も言語であると定義され,その重要性が認知され,手話研究の重要性は高まっている。これと同時に,重度難聴者への補聴を可能とする人工内耳などの技術も高まっており,手話を第一言語として習得する者が減少してきている。本稿では,手話言語がどのように成り立ち,習得され,なぜ消滅の危機に陥るのかについて整理した。これまで,地域共有手話や,発展途上国の都市型手話など,より強い都市型手話の影響に晒され,手話言語間で,より優位な手話言語にシフトするという言語シフトについて議論がされてきた。日本で使われている手話言語には,聾学校で発生した都市型手話であり,第一言語として身につけて使われる日本手話と,日本語を第一言語として身につけた上で日本語を表示するために使われる代替手話としての日本語対応手話(手指日本語とも呼ばれる),およびそれらの混成が見られる。このうち本稿では,都市型手話として発展してきた日本手話の音声言語への言語シフトの問題をとりあげた。手話の類型を提示したのち,日本手話という都市型手話が,話者が周囲の優勢な音声言語である日本語を身につけることによって消滅の危機にさらされていることを主張した。
著者
儀利古 幹雄 大下 貴央 窪薗 晴夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-18, 2011-11

国立国語研究所 理論・構造研究系 プロジェクト研究員国立国語研究所 理論・構造研究系本研究は,語末が「ズ」であるチーム名およびグループ名(例:ライオンズ,ホエールズ)のアクセントの決定要因を明らかにし,「ズ」という形態素の音韻的本質を考察する。本研究で実施した発話調査の結果,チーム名・グループ名を形成する「ズ」は,語幹の音節構造におけるデフォルト型アクセントを生起させる性質を有することが明らかになった。この現象は,日本語における無標の表出(the emergence of the unmarked)であり,平板型アクセントが有標であることを示唆している。
著者
楊 秀娥 Xiue YANG
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL Research Papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.14, pp.325-347, 2018-01

本稿は,談話分析の手法で,日本語ピア・リーディング授業の中で,学習者の批判的思考がどのように活性化しているのかを示したものである。日本語ピア・リーディング授業において,学習者はテキストに対する質問とコメントを提起しながら,批判的にテキストを読んでおり,テキストに書かれた原文の考えと様々な異なりを見せた代替案を創り,創造的にテキストを読んでいた。そして,他者との対話を通して,提示された問題に対する解決,深化,共有などの変化がもたらされ,問題解決に向かっていった。ピア・リーディングのプロセスにおいて,学習者は,各々の思考についてメタ的に考え,解釈,説明,推論,評価,分析といった批判的思考の認知技能を多く活性化させていた。一方で,問題解決につながっていない対話がなされるケースも少なくなかった。This paper demonstrates the processes of activating the learners' critical thinking in a Japanese peer reading course using the approach of discourse analysis. In the Japanese peer reading course, the learners have read the text critically by raising both comprehensive questions and querying questions; they have read the text creatively by producing alternative ideas to replace the original ones in the text. Through dialogue with other group members, the learners developed their problem-solving ability by solving the problems, deepening their understanding, and sharing their answers with others. In the process of peer reading, the learners acquired the ability to improve their meta critical thinking, and activate their cognitive skills of interpretation, explanation, inference, evaluation, and analysis. Meanwhile, many cases were confirmed of dialogues that did not lead to problem-solving.
著者
柳村 裕 Yu YANAGIMURA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.205-225, 2017-01

東京外国語大学 特別研究員本研究では,岡崎敬語調査資料の分析に基づき,「敬語の使用」と「話者の職業」がどのような関係にあるかを探る。敬語使用の特徴に関わる指標として発話の「丁寧さ」と「長さ」を集計し,話者の職業は「事務系」「接客系」「労務系」の三つを区別した。これらの敬語使用の特徴が話者の職業によってどう異なるかを調べた。また,岡崎敬語調査資料の複数の調査時点での多様な生年・年齢の話者を比較することにより,職業による敬語使用特徴の差異のパターンがどのように変化してきたか,また,個人内でどのように変化するかを調べた。結果の概要は以下の通り。まず,事務系,接客系,労務系のうち,労務系が最も短くぞんざいに話す。事務系と接客系では,発話の長さは同程度であり,丁寧さは事務系のほうがわずかに高い。また,経年変化パターンに関して,接客系の話者は年齢が高くなるほど長く丁寧に話すようになる。つまり,言語形成期以降の加齢に伴う言語変化である「成人後採用」のパターンが観察される。事務系と労務系では,成人後採用は観察されないか,あるいは観察されたとしてもその変化幅が接客系のものより小さい。以上の分析結果に基づき以下のような解釈を行った。まず,敬語使用特徴の職業差は,職務の中での敬語使用の違いによるものとして説明できる。つまり,職務の中での敬語使用は,職務以外の私的な場面での敬語使用に影響を与えると解釈できる。また,職務の中での敬語使用の違いは,敬語の習得・変化のパターンにも影響すると解釈できる。以上より,職業という話者属性は,敬語の使用・習得・変化と,それらの社会的変異を理解する上で重要な話者属性の一つであるといえる。
著者
加藤 祥 柏野 和佳子 立花 幸子 丸山 岳彦
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.8, pp.85-108, 2014-11

国立国語研究所 コーパス開発センター プロジェクト研究員国立国語研究所 言語資源研究系国立国語研究所 コーパス開発センター 技術補佐員国立国語研究所 言語資源研究系書籍テキストに見られる「語りかける」という文体の特徴を報告する。調査対象には,『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)に収録されている図書館サブコーパスを使用した。コーパスを用いた文体分析を行うにあたっては,語や文脈的な語の結びつきなどの頻度情報のほか,コーパスに付与された書誌情報やアノテーターによる作業コメントなどを用いた。「語りかける」という文体は,エッセイやブログなどのくだけたテキストにのみ出現しやすく,直接的に読み手へ呼びかけや問いかけを行うなどの表現を有すると考えられてきた。しかし,書籍においては,いわゆるハウツー本をはじめとするような教示的な態度を示すテキストに出現しやすい傾向があり,必ずしも直感的に「語りかける」ととらえられる表現が多く含まれるばかりではないことがわかった。本稿は,テキストが「語りかける」と読み手が判断した際に,文脈に依存した表現や,テキストに向かう読み手の前提的態度などが影響していたことを示す。
著者
大滝 靖司
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL research papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.111-133, 2013-11

中央大学高等学校本研究は,日本語における英語からの借用語で起こる促音化の辞書データを分析し,生起要因を考察する。その結果から,借用語の促音化には「語末の促音化」と「語中の促音化」の2タイプがあることを指摘する。前者は原語の語末子音を借用語でも音節末子音として保持するための現象である一方,後者は原語の音配列および重子音つづり字の影響を受けた現象であることから,借用語音韻論で扱うべき音韻論的な借用語の促音化は,語末の促音化であることを主張する。また,両者の中間的な環境における促音化パタンを細かく観察し,それらが語末の促音化が起こる「語末」の環境であるのか,あるいは,語中の促音化を引き起こす「語中」とみなされているのかを論じることで,借用語の促音化の全体像を捉える。
著者
上野 善道 Zendo UWANO
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 = NINJAL Research Papers (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.20, pp.115-147, 2021-01

東京大学名誉教授岩手県沿岸北部に位置する田野畑村方言について,体言および用言活用形を対象とした調査の報告を行なう。そこには3モーラ名詞の第6・7類や活用形のいくつかに北奥方言の中で最も古いと推定される特徴が見られ,それらが北奥アクセント祖体系の拙案とほぼ一致することを述べたあと,その資料に基づいて祖体系案の微修正をする。