著者
澤瀬 隆 熱田 充 柴田 恭明 馬場 友巳
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

我々はリン酸カルシウムを貝殻の成分として有するミドリシャミセンガイの貝殻-貝柱間の強固な接着機構に着目し,バイオミメティックス技術を応用することで,生体材料であるチタンに同様の軟組織との結合能を付与することを目的として研究を開始した.平成17年度においてはチタン表面へのアパタイト/ラミニンの析出及びラミニン含有アパタイトコーティングディスクを用いたin vitroにおける細胞培養に関する研究を行い,その結果は昨年の報告書に記載した通りである.引き続き本年度はファイブロネクチンコーティングディスクにより線維芽細胞を用いたin vitroでの検討,ならびに同様の処理・コーティングを行ったスクリューインプラントを用い,ラット口蓋粘膜への埋入実験を行い,in vivoでの検討も加えた.その結果接着タンパクであるファイブロネクチンの存在により線維芽細胞の有意なケモタキシスが観察され,またインプラントに直行する線維の走行を可能とした.しかしながらバイオミメティックスという本題に振り返ると,貝殻-貝柱間において観察された,貝殻内面再表層と貝柱筋線維を繋ぐような10-15μm程度の膜様構造を再現することは困難であった.この膜様構造は,興味深いことに歯根表面と歯槽骨とを繋ぐ歯根膜と類似の構造を呈し,独立した組織を連結するためには,この2層構造が鍵となるのではないかとの仮説に至っている.今後,発展の一途をたどる再生医療とのコラボレートも視野に入れ,本研究を一層深めることが必要である.