著者
柴田 潤二
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

HIVのエンベロープタンパク(Env)を標的とし、感染を抑制する抗体を誘導するワクチン開発が求められている。しかし、HIVはEnvを変異させ、中和抗体から逃避することができる。変異が引き起こす中和抗体逃避メカニズムを詳細に解明することは、ワクチン開発を行う上で重要である。我々は、これまでにHIVの抗gp120-V3領域中和抗体(抗V3抗体)からの逃避に関する研究を行ってきた。V3領域はHIVが標的細胞に感染する際、受容体との結合に重要な領域であり、この領域を標的とした抗体には強い中和能があることが知られている。抗V3抗体を用い、この抗体から逃避するような中和抵抗性ウイルスを誘導したところ、エピトープ以外の領域であるV2領域の数アミノ酸変異で逃避できることが分かった。そこで、本年度はV2領域変異が引き起こす中和抵抗性メカニズムを詳細に解析した。site-directed mutagenesis法を用い、gp120のV2領域の変異を組み合わせたウイルスを作製し、中和感受性に影響を与える変異を探索したところ、L175P変異が抗V3抗体に対する感受性を20000倍以上上げることが分かった。その変異はウイルス膜上に存在する三量体gp120の立体構造に影響を与え、中和感受性を変化させる働きがあることがわかった。つまり、HIVは感染に最も重要と考えられるV3領域を守るため、エピトープ以外のV2領域に変異を入れることにより三量体構造を変えてエピトープを隠し、中和抗体のプレッシャーから逃れることが分かった。本研究により、今後、中和抗体誘導ワクチンを開発するためには、(1)V2領域の変異に左右されないエピトープを標的とした抗体の誘導、(2)V2領域が変異しても、隠れたエピトープを露出させる方法の探索、などが必要であることが示された。