著者
柴田 裕介 山口 和紀
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1395-1411, 2011-03-15

本論文では,命題の是非を論争するタイプの議論を分析するための新しいフレームワークSPURIを提案する.SPURIは,従来,議論の支援を第1の目的に研究されていた議論フレームワークを,議論の分析という観点から活用することで,議論の論理的構造に着目した分析手法を提案するものである.SPURIが従来の議論フレームワークと異なる特徴として,議論を発言の繰返しとしてとらえることで議論の展開過程を表現したこと,議論の論理構造を巨視的に把握するための論を導入したこと,記述力と推論力のバランスの良いDAGに近いグラフ構造を採用したことがあげられる.また,SPURIは意味論を定義しており,主張の是非を推論することができる.SPURIによる分析の実用性を確かめるために,対面で厳密な論証を行う法制審議会と,オンラインで意見を交わすSNSフォーラムの2つのタイプの異なる実際に行われた議論を対象にSPURIを適用し分析した.その結果,いずれの場合も議論の争点は何か,議論が十分尽くされてない論点は何か,議論の流れを転換した発言は何か,議題に賛成(反対)している発言者は誰かがなどが抽出でき,議論の内容とも合うものであった.これらの分析は従来研究の手法では困難であったものである.これは,特定の議論様式(対面,オンラインの区別),議論の厳密さの程度にかかわらずSPURIが活用できることを示しており,SPURIの優位性・実用性が明らかになった.