著者
柿岡 諒
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

コイ科タモロコ属魚類の形態における適応進化に関する研究を進めるため,本年度は,1)タモロコ属野外集団の系統的・系統地理的解析,2)タモロコとホンモロコのF2種間雑種を用いた連鎖解析を主に行った.1)については,ミトコンドリア遺伝子の塩基配列を用いた系統・集団遺伝学的解析を昨年度から引き続き行った.その結果,属内における系統の多様化とタモロコ種内の隠蔽系統が明らかにされるとともに,湖沼集団の成立が複数回独立に生じたことを明らかにすることができた.この結果については論文執筆を行い,投稿した.河川から湖沼に進出した魚類では遊泳・採餌関連形質に適応的変化が生じることが示唆されており,この変化がタモロコ属魚類でもホンモロコに生じたことが考えられた.この適応的な形態分化の遺伝的基盤を明らかにするため,タモロコとホンモロコのF2交配家系を用いた連鎖地図の作成と湖沼適応に関連したQTL(量的遺伝子座位)解析を行った.遺伝マーカーを探索するに当たっては,次世代シーケンサーを利用してゲノムワイドで高効率に大量のSNP(一塩基多型)マーカーを作成できるrestriction-site associated DNA sequencing (RAD-seq)を採用した.Illuminaシーケンシングにより得られたRAD-tagマーカーを用いて,高密度連鎖地図を作成することに成功した.さらに得られた連鎖地図と形態計測データをもとにQTL解析を行ったところ,湖沼型のホンモロコと河川型のタモロコ間での形態の差に差に関わる遺伝領域とその効果が検出された.ホンモロコとタモロコ間における採餌関連形質や体型の違いの多くは,効果の小さい複数の遺伝子座に支配されることが示唆された.