著者
小笠原 正 川瀬 ゆか 磯野 員達 岡田 芳幸 蓜島 弘之 沈 發智 遠藤 眞美 落合 隆永 長谷川 博雅 柿木 保明
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.11-20, 2014-07-22 (Released:2014-08-15)
参考文献数
21
被引用文献数
2

要介護者の口腔粘膜にみられる付着物は,痰,痂皮,剥離上皮と呼ばれているが,上皮成分を主体とした付着物を剥離上皮膜と定義づけ,本研究にて,要介護高齢者の口腔内に形成された剥離上皮膜を部位別に形成要因を検討した。調査対象者は,入院中の患者のうち 65 歳以上の要介護高齢者 70 名であった(81.1±7.7 歳)。入院記録より年齢,疾患,常用薬,寝たきり度を調査し,意識レベル,発語の可否,介助磨きの頻度は担当看護師から聴取した。歯科医師が口腔内診査を行い,膜状物質の形成の有無,Gingival Index などを評価した。形成された膜状物質は,歯科医師がピンセットで採取した。粘膜保湿度(舌背部,舌下粘膜)は,粘膜湿潤度試験紙(キソウエット®)により 10 秒法で評価した。採取された膜状物質は,通法に従ってパラフィン切片を作製し,HE 染色とサイトケラチン 1 による免疫染色で重層扁平上皮か否かについて確認し,重層扁平上皮由来の角質変性物が認められたものを剥離上皮膜と判断した。剥離上皮膜形成の有無を従属変数として,患者背景・口腔内の 14 項目,疾患の 15 項目,常用薬の 32 項目,合計 61 項目を独立変数として部位ごとで決定木分析を行った。 すべての部位で剥離上皮膜の形成に最優先される要因は「摂食状況」であり,経口摂取者には,剥離上皮膜がみられなかった。第 2 位は舌背部で舌背湿潤度,頰部で開口,歯面の第 3位が開口であり,口腔粘膜の乾燥を示唆する結果であった。以上,剥離上皮膜の形成要因には口腔乾燥があり,保湿の維持が剥離上皮膜の予防につながると考えられた。
著者
久保田 潤平 遠藤 眞美 久保田 有香 柿木 保明
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.10-16, 2015 (Released:2015-06-30)
参考文献数
16

食事は生活のなかの楽しみとなるため,味覚が障害されると食欲低下の原因となるだけでなく,精神的苦痛をこうむることにもつながる.しかし,味覚障害の原因は多岐にわたり治療に苦慮することも少なくない.また,明確な診断がつかないために特発性味覚障害と診断され,適切な治療が行われていないこともある.著者らは以前の研究で,382人の調査において水分代謝不良が味覚障害のリスクとなる可能性を明らかにした.そこで今回は,水分代謝不良と関連する味覚障害と考えられた者に対して水分代謝を改善する漢方薬である五苓散と八味地黄丸を応用した者への臨床的有用性を検討した.対象:平成23年7月~平成26年3月の間に味覚の異常感を訴えて九州歯科大学附属病院口腔環境科(以下,当科)を受診した患者で,当科受診前に他科・他院を受診し,特発性味覚障害とされた82人のうち,当科において水分代謝不良と関連する味覚障害と判断した45人を対象とした.方法:対象者の診療録から全身状態や主訴に関する項目を抽出するとともに,五苓散または八味地黄丸の服用による有効性の検討を行った.結果:服用開始6カ月以内における自覚症状の変化は“治癒”が21人(46.7%),“改善”が20人(44.4%),“不変”が4人(8.9%),“悪化”が0人(0.0%)であり,有意(p<0.01)に改善がみられた.本調査より,水分代謝不良と関連すると思われる味覚障害患者においては,水分代謝を改善する漢方薬の応用が有用であることがわかった.
著者
朝比奈 滉直 小笠原 正 秋枝 俊江 宮原 康太 松村 康平 荘司 舞 島田 茂 島田 裟彩 柿木 保明
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.375-381, 2020

<p>要介護高齢者は発熱がみられることがあり,さらに誤嚥量の増加,脱水,免疫機能の低下により肺炎となることが危惧される.要介護高齢者において発熱を予防していくことは重要である.今回,経管栄養者の患者背景および口腔内所見と発熱との関係を検討した.</p><p>対象者は要介護高齢者のうち経管栄養がなされ,一切経口摂取がされていない患者16名であった.入院・入所記録より年齢,基礎疾患,寝たきり度,調査時より過去6カ月以内の発熱の有無を記録し,意識レベル(Japan Coma Scale),意思疎通の可否を確認した.発熱は,37.5℃以上とした.口蓋粘膜より採取された膜状物質は,顕微鏡にて重層扁平上皮由来の角質変性物が認められた.発熱との単相関は,Fisherの直接確率計算,<i>χ</i><sup>2</sup>検定,あるいはStudentのt検定にて解析した.</p><p>年齢,性別,寝たきり度,意識レベル,意思疎通,基礎疾患,および残存歯,う蝕歯,CPIと発熱との関連は,統計学的に有意な差は得られなかった.剝離上皮膜の有無と発熱は有意差を認め,剝離上皮膜を有する者は発熱が有意に多かった.剝離上皮膜がみられる口腔や気道は乾燥傾向にある.口腔と気道の乾燥は,局所の免疫能低下と特異的な細菌をもち,発熱を起こすことが疑われた.発熱を予防するためには,口腔粘膜の擦拭と保湿の粘膜ケアが重要であることが示唆された.</p>