著者
栗栖 和孝
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.93-103, 2002-12-30 (Released:2017-08-31)

Flemming(1995)は,拡散理論(Dispersion Theory)を最適性理論の枠組みで具現化し,相反する有標性制約が,音韻論において重要な役割を果たすことを論じている。この理論では,各制約が対立する音声的,機能的根拠によって動機付けられ,その階層化が音韻現象を説明する。言語の音素目録を説明する有力な理論は存在しなかったが,拡散理論がこの点で有効であることを,デンマーク語の分析を通して例証する。更に,拡散理論が音韻理論に重要な示唆を与えることを論じる。特に,有標性制約が相互に対立するという概念が,最適性理論を含めた他の音韻理論で仮定されている単一的な有標性制約の概念では捉えられない現象の説明に大きな貢献をすることを示し,拡散理論の中核を成す対立的有標性制約が,音韻理論に吸収される必要があることを論じる。