著者
Sakae INOUYE Yoshibumi SUGIHARA
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.43-49, 2015-12-30 (Released:2017-08-31)

We created a device for measuring the strength of puffs near the mouth which are generated during speaking, and then compared the strength among Japanese, English and Chinese languages. Subjects were 14 or 15 male university-students for each group of the three languages. They read aloud texts (about 3-minute length) from a Murakami Haruki's novel in their native languages with a funnel held by hand before the mouth. The wind pressure (stagnation pressure) produced at the bottom of the funnel, which reflects the initial velocity of the puff, was transformed to electrical signals through a differential pressure transducer. The signals converted from analogue to digital data at 10-millisecond intervals were recorded on a personal computer. Then all of the pressure data with 15 pascals or higher were summed up for each reading, and the sum was designated as "Strong Puff Total, SPT". It was found that there was no significant difference in the SPT medians between English and Chinese groups, but the medians of the two groups were more than 3 times greater than that of the Japanese group; it quantitatively confirmed that the strength of puffs from the mouth in Japanese speaking is weak.
著者
宇都木 昭 田 允實 金 熹成
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.30-42, 2008-08-30 (Released:2017-08-31)

日本語(東京方言)におけるダウンステップの存在が古くから指摘されている一方で,近年では韓国語(ソウル方言)にもそれに類する現象が存在するという指摘がある。これらの現象は,フォーカスによってリセットされるという点て共通する。本稿は,これらの現象とそれがリセットされた場合との間の離散性の有無について,それを解明することの理論的重要性を指摘するとともに,範躊知覚実験による解明の試みを報告するものである。実験の結果,どちらの言語に関しても典型的な範躊知覚の特徴は見出されなかった。これにはアクセントの影響や刺激音の自然度の影響という想定外の要因が混入したと考えられるため,離散性の有無に関して現時点で結論を下すのは困難であり,今後方法論の改善を要する。一方で,実験の主目的とは別の点て,いくつかの興味深い結果が得られた。これには,上述のアクセントや刺激音の自然度の実験結果への影響に加え,刺激音提示順の効果,および,F0ピークの役割に関する日本語と韓国語の差異が含まれる。
著者
Shigeto KAWAHARA Donna ERICKSON Jeff MOORE Yoshiho SHIBUYA Atsuo SUEMITSU
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.77-87, 2014-08-30 (Released:2017-08-31)

近年の研究では,英語の単語・文レベルの強勢が下顎の開きの大きさに顕現することが示されてきた。この結果を踏まえ,本稿では日本語の韻律パターンがどのように下顎の開きに影響するかを検証した。対象としたのは日本語のピッチアクセント,韻脚(foot),韻律句(phonological phrase)の影響である。EMAを使った本実験によると,ピッチアクセントは日本語では顎の動きに影響が無く,韻脚もはっきりとした影響を及ぼしているとは言いがたい。しかし韻律句に関しては,句の最初や最後,特に文の最後に大きな顎の開きがみられ,ここに何かしら強勢を認めることができる。ここで浮かび上がってくる仮説は,「日本語にも強勢が存在する」というもので,従来の「英語=強勢言語,日本語=アクセント言語」という分類法に疑問を投げかける。
著者
川原 繁人 篠原 和子
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.101-110, 2009-12-30 (Released:2017-08-31)

近年の音韻論・音声学研究において,音の対応は知覚的に近似するものの間で起こりやすいことが,洒落や韻などの分析をもとに指摘されている(Steriade 2003)。これは日本語のダジャレの音対応分析によっても確認され,特に子音の対応には知覚的近似性の知識が使われていることが示された(Kawahara and Shinohara 2009)。本稿はこれらの研究に基づき,新たに日本語のダジャレにおける母音の対応を分析する。ダジャレのコーパスデータにみられる母音の近似性行列の特徴を分析したところ,弁別素性(distinctive fatures)に基づく音韻的近似性ではこの特徴は説明しきれず,知覚的近似性を考慮して初めて説明可能となることが判明した。ゆえに本研究の結果からは,弁別素性に基づく音韻論的対応仮説よりも知覚的近似性にもとづく音声学的対応仮説の方が音の対応をより適切に説明できる,という結論が得られる。
著者
大竹 孝司
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.76-85, 2010-04-30 (Released:2017-08-31)

本研究は,心理言語学の領域における音声言語の語彙認識の研究で提案されている語彙候補活性化モデルの観点から,話し言葉としての日本語の駄洒落のメカニズムについて考察を試みたものである。このモデルでは,聞き手は話し言葉の個々の単語を直接認識するのではなく,類似した音構造を持つ複数の活性化された単語の中から競合を経て目標の単語を選択するとしている。その際,候補となるのは話者が意図した単語のみならず,単語内や単語間に潜む「埋め込み語」が含まれる。本研究では,即時性を伴う言葉遊びと「埋め込み語」の関係を明らかにするために日本語の駄洒落のデータベースの分析を行った。その結果,駄洒落には同音異義語と類音異議語に加えて単語に内包された単語や外延的な関係にある単語も利用されていることが明らかになった。この結果は,駄洒落では活性化された候補群から最適のものが選択されていると解釈される。このことは駄洒落では候補が英語のpunなどよりも広範囲から選択されるためより自由度の高い言葉遊びであることを示唆している。
著者
アーウィン マーク
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.69-80, 2004-08-31 (Released:2017-08-31)

日本語の歴史的音韻学の定説の中で,音便というのは未だに不透明な部分もあり,中古語で発生した複雑な音変化群を示す。しかしながら,Frellesvigの『A Case Study in Diachronic Phonology - The Japanese Onbin Sound Changes』という著作が1995年に出版されるまで,ある意味では,音便の音変化の働きに関する特徴の理解,殊に音便の誘引や動機づけの理解が浅薄だったと言えるであろう。このFrellesvigの通時的な音韻学の例示研究はAndersenが60年代から開発した言語学理論の枠組の内で製作されたものの,Andersonの理論は記号学やヨーロッパの構造言語学に基づいたものである。この論文では,音便を定義し要約したのち,現象の誘引や動機づけを吟味しながら,現在までの学識及び観点の異なるFrellesvigの理論についても考察する。
著者
鶴谷 千春
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.102-110, 2007-04-30 (Released:2017-08-31)

本研究は,幼児の音素習得の順序に影響を与えている言語に固有の要因を調査することを目的とした。各言語によって,音素の習得順序には差異があることが知られており,出現頻度やその言語における音韻的役割などが,その原因として挙げられる。日本人幼児の言語習得において,後部歯茎摩擦音/破擦音の習得は,言語一般に考えられているよりも早いことが知られているため,[∫][t∫][s]に注目し,母親の子供への話しかけの中での出現頻度と,その音素の現れる環境を調べた。その結果,母親の発話の中では幼児に対して使う幼児語表現の多さから,異なり語数は少ないものの,後部歯茎摩擦音/破擦音の延べ出現数が高くなっていることがわかった。
著者
Shigeto KAWAHARA
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.9-15, 2015-08-30 (Released:2017-08-31)

The C/D model is a theory of the phonology-phonetics interface. This paper presents my personal understanding of the C/D model, based on my reading of Osamu Fujimura's work as well as my personal interaction with him. I also point out some key features of the C/D model as a theory of the phonology-phonetics interface.
著者
栗栖 和孝
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.93-103, 2002-12-30 (Released:2017-08-31)

Flemming(1995)は,拡散理論(Dispersion Theory)を最適性理論の枠組みで具現化し,相反する有標性制約が,音韻論において重要な役割を果たすことを論じている。この理論では,各制約が対立する音声的,機能的根拠によって動機付けられ,その階層化が音韻現象を説明する。言語の音素目録を説明する有力な理論は存在しなかったが,拡散理論がこの点で有効であることを,デンマーク語の分析を通して例証する。更に,拡散理論が音韻理論に重要な示唆を与えることを論じる。特に,有標性制約が相互に対立するという概念が,最適性理論を含めた他の音韻理論で仮定されている単一的な有標性制約の概念では捉えられない現象の説明に大きな貢献をすることを示し,拡散理論の中核を成す対立的有標性制約が,音韻理論に吸収される必要があることを論じる。
著者
Alexei KOCHETOV
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.63-76, 2014-08-30 (Released:2017-08-31)

本論文は日本語の有声・無声阻害音の声道調節の特徴を64電極の電気的口蓋図によって解析した結果を示す。5名の研究協力者に種々の母音間で有声または無声の閉鎖音や摩擦音を発音してもらい電気的口蓋図を観測し解析した。その結果,調音点や調音様式が共通でも有声・無声子音間には体系的でかつ閉鎖音と摩擦音で異なる傾向が観測された。閉鎖音の場合,舌・口蓋接触面積は有声音の方が無声音より小さかったものの,摩擦音では逆に有声音の方が接触面積は広く中央の声道溝が狭かった。このような結果は他の言語での知見と一致しており,有声・無声対立に関わる声道調節機序が閉鎖音と摩擦音では異なるためと考えられる。
著者
天野 修一
出版者
The Phonetic Society of Japan
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.14-27, 2012-12-30 (Released:2017-08-31)

英語の2音節名詞は第1音節に強勢を持つ語が大多数であり,2音節動詞は第2音節に強勢を持つ語が多い。このような傾向は語強勢の典型性と呼ばれる。先行研究ではゲーティング課題により,英語母語話者及び学習者が,典型的な強勢型の語を非典型的な強勢型の語よりも短い提示時間で認知することが示された。しかし,学習者の聴解力の影響など未検証の課題も残された。そこで本研究では,学習者の第一言語を日本語に統一し,聴解力上位群と下位群の比較を含めた再検証を行った。その結果,日本人英語学習者はやはり音声単語認知の際に語強勢を手掛かりとして利用しており,典型的な強勢型の語を非典型的な語よりも短い提示時間で認知することがわかった。また聴解力は典型性効果の度合いに影響を及ぼすことが明らかになった。