著者
栗田 大輔 武藤 昱 姫野 俵太
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.465-471, 2008-07-01 (Released:2011-04-14)
参考文献数
41

タンパク質合成の場であるリボソームは,3種類のRNAと50種類以上のタンパク質からなる分子量250万もの巨大な複合体であることから,構造解析は困難と考えられてきたが,今世紀に入り相次いで高分解能の結晶構造が報告された.最近では,tRNAをはじめ各種翻訳因子とリボソームとの複合体の構造も報告されるようになり,その中から“タンパク質がtRNAを分子擬態する”という新しい概念が生まれた.ここでは,トランス・トランスレーションと呼ばれる変則的な翻訳システムとその主役であるtmRNAに焦点を当て,これまでにない新しい“分子擬態”について紹介する.
著者
姫野 俵太 栗田 大輔
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.878-884, 2016

リボソーム上のタンパク質合成は開始コドンに始まり,遺伝情報に基づいたペプチド伸長サイクルの繰り返しを経て終止コドンで終了する.翻訳の終了にあたっては,ペプチド解離因子(RF1またはRF2)が合成されたポリペプチドをtRNAから切り離す.しかしながら,さまざまな原因により(場合によっては計画的に)タンパク質合成を途中で中断せざるをえない状況に追い込まれることがある.たとえば,mRNAが翻訳中に切断を受けて3′側を失うと,リボソームは終止コドンに出会うことなしにmRNAの3′末端に到達してしまう.この場合,ペプチドの解離が行われないため,リボソームはそこで立ち往生することになる.こうした状況を解消すべく,細胞はリボソームレスキュー機構(翻訳停滞解消機構)を備えている.細菌のリボソームレスキュー機構として最初に見つかったのはtmRNAとSmpBによるトランストランスレーションである.ほぼすべての細菌はトランストランスレーション機構を必ずもっているが,それ以外にも2つのリボソームレスキュー機構が存在することが明らかになってきた.本稿では,これら3種類を中心に細菌のリボソームレスキュー機構について概説する(図1).