著者
栗田 子郎
出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.879, pp.395-401, 1961
被引用文献数
4

日本産シダ類10種の染色体数を報告する. 観察の結果, イブキシダは<i>n</i>=36, イヌガンソクは<i>n</i>=40,キヨスミヒメワラビ&bull;イワデンダ&bull;ミヤマクマワラビ&bull;タニヘゴの4種は<i>n</i>=41,ミドリヒメワラビは<i>n</i>=61-62, ベニシダ&bull;マルバベニシダ&bull;ミサキカグマの3種は<i>n</i>=123であることが判明した. また, 胞子母細胞および胞子の数の算定より, ベニシダ&bull;マルバベニシダ&bull;ミサキカグマの3種はアポガミーをおこなうものと推測された. とくに, 筆者の観察したベニシダでは根端細胞においても約123の染色体がみられたので, この種がアポガマス (apogamous) なものであることはまちがいないと考える.本論文中の学名は大井著, 日本植物誌&bull;シダ編のものである.
著者
栗田 子郎 西田 誠
出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.930, pp.461-473, 1965 (Released:2006-10-31)
参考文献数
24
被引用文献数
4 7

栗田子郎•西田誠: ハナヤスリ目の細胞分類学III. ハナヤスリ属の染色体数日本産のハナヤスリ属の内, 2種1変種の染色体数を観察した. ヒロバハナヤスリ (O. vulgatum)はn=240である. この染色体数はオランダ産のものと一致する. コヒロバハナヤスリ(O. petiolatum) には4系(細胞学的) があることが知られた. 千葉県の成田, 臼井, 銚子, および栃木県日光産の個体はn=480で胞子形成過程は正常である.千葉県稲毛産の個体はインド, セイロン産のものと同様n=510~520であるが,しばしば減数分裂に異常が起こり, 染色体橋や偽直接分裂が観察された. 千葉県土気と京都黒谷産の個体は正常な減数分裂をしない. 第1分裂中期での染色体数は一定せず450~500の問である. 染色体の大きさはさまざまで, 多価染色体および1価染色体と考えられるものがかなり現われる. 恐らくn=480の個体に由来する Cyto-races の1つであろう. 一方千葉県東金産の個体は土気や京都産の個体と同様に減数分裂が異常であるが, 2, 3の胞子母細胞の第一分裂中期で約700の染色体が数えられた. この内, 約400が2価染色体で残りが1価染色体と推定されるので, 実際に体細胞の染色体数を数えることはできなかったが,多分2n=ca. 1100ぐらいであろう. コハナヤスリ (O. thermale var. nipponicum) でも3っの Cyto-racesが知られた. 1っは東京小金井産のものでn=240である. これは Verma (1957) が報告したものである.一方成田のd群落の個体はすべて2n=480で胞子形成過程は正常であり, 成田のe群落と京都黒谷産の個体は土気や京都産のコヒロハハナヤスリと同様正常な減数分裂はせず2分子や3分子の形成がみられた.後者では染色体数は正確には数えられなかったが, ある母細胞では約460であった. いくつかの多価染色体と思われるものがあり, 恐らくn=480の個体に由来するものであろう.形態学的にみると, コヒロハハナヤスリは特に多型で, 葉身が丸く葉柄が非常に短かい個体, 葉身は細長く葉柄が顕著な個体, および両者の問のさまざまな中間型とがある. しかしこの多型現象と染色体数との間には何らの関連も見出しえなかった.西田 (1959) はハナヤスリ属を2っの亜属, Vulgata と Aitchisonii に分けた. 染色体数をみると後者にはn=240以上の数を持つものが現在のところ知られていない点は注目に値する. Ninan (1958) らはハナヤスリ目の基本染色体数を15だと考えているが筆者達もこの考えに賛成である.ハナヤリ目は非常に特殊化された植物の一群で系統的には現生の他のシダ植物からかなり離れたものと考える.