著者
栗田 廣美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.52-60, 1985-07-10

明治四十三年に書かれた『叛逆者』は、クロポトキンの『相互扶助論』(MutualAid)を密かになぞりつつ、国家主義的<現代文明>への痛烈な批判を内在させた、有島の大逆事件への回答だと言える。それは、作家的出発に際しての<芸術宣言>でもあるが、その論理は、少年時代以来、有島の内部に育ちつづけた歴史意識-<中世への共感>に支えられていた。有島にとっての<歴史>の意味は、彼の芸術の生成を考える上で、重要なものである。